スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
【--/--/-- --:-- 】 | スポンサー広告 | page top↑
第六章・偶然の一致ほど怖いものは、ない

だから、まあ、全ては偶然だったのである。


「シオンさん、敵兵が!」

「知るか!!」


廊下の向こうから弓を持った人形が五体、待ち伏せしていたのも。

その人形達の受けた命令が、味方を犠牲にしてでも足止めしろという内容だったのも。

その味方、つまり少女がその場で扉を壊そうとしていたのも。

その扉が、シオンの大事な書物庫の扉だったのも。

そして、そんな状況に居合わせたシオンが、少女の斧を止めるために駆け出したのも。


「え、ちょっ、何!?」


止める方法は、少女を突き飛ばすという少々荒っぽいやり方ではあったが。

しかしそのお陰で、少女は味方である人形達が放った矢の雨を受けずに済んだ訳だ。

突き飛ばす格好の流れに逆らわず、シオンはそのまま床に伏せ、一直線に向かってきた矢を避けた。

その矢の向かう先は、獣馬の方へ。


「禁!」


アロドが符を放ち、即席の結界を作って矢を全て落とす。結界はすぐに、消えた。

ばらばらと矢が全て落ちる頃には、シオンは足で床に簡易型の魔方陣を描いていた。


「アルシュラート!!」


魔方陣から離れ、ついでに少女を巻き込まない為に抱きかかえてその場から離し、叫ぶ。

轟、と魔方陣から炎が湧き上がる。

それは戦火の炎ではなく、優しい、しかし勢いのある巨大な炎。

火炎は数秒もかからないうちに、金色の一角を額から生やした緋色の狼に変貌した。

シオンの契約精霊、「暖炉の」アルシュラート。


「アル、一発決めちゃって」

「合点」


若い男の声を発したその口から、同時に橙色の炎が吐き出される。

火炎は城を燃やす事なく、人形を緩やかに、しかし確実に炙り屠る。

あっというまに人形達は炎に飲まれ、かすかな塵を残して消え去った。


「ふー…危なかったー」

「シオン、先走るなよ。危ないだろ」

「俺を誰だと思ってんだレス。ちゃんと生き残ってるだろ」

「そーゆー問題じゃなくてだなー…」


ぐっ、と親指を突き上げてのたまうシオンに、レスが肩を落とす。

獣馬に乗った二人はいつもの事だからと気にせずに周囲をうかがっていた。

どうやら、もう敵が潜んでいる様子はないようだ。


「さて、と。んでこの子は一体?」


シオンが言っているのは、彼が抱きかかえていた少女。

髪は金色で、肌は浅黒い。それ以外は、フード付きのローブで殆ど隠れてわからない。

もちろんこんな少女が、普段から城にいるわけではない。シオンは最終確認の為に、獣馬の二人に聞いた。


「いえ、俺は知りませんよ」

「じゃあやっぱ神国の仲間かな。にしては生身の人間だし、若いし…」


うつむく少女の顔は、フードのせいでよく見えない。

ぎゅう、とシオンの服の裾を強く握る姿は、どう見てもあの人形達の味方とは思えなかった。

しかしこの少女は重い斧を軽々と扉に振るっていたのだ。只者ではない。


「おい、大丈夫か?」


返事はない。

どうしたのだろうか、と、シオンは少女の顔を覗き込む。

金色の瞳と、少女の瞳―――――鮮血のように赤い、瞳とかち合った。


「お前、その目…」


シオンの吐いた言葉は、それ以上続かなかった。

だって、少女が突然、抱きついてきたから。

そしてこう言った。


「王子様、みーっけ!」


思わず目が点になったのは、言うまでもない。



***



「ってことは、お前さんは神国の人間なんだな?」

「って言っても、居候みたいなもんだけどね。「悪魔狩り」から逃れた悪魔族のほとんどは神国にいるよ」


悪魔族。少女は自分の種族をそう呼んだ。

悪魔族という名称ではあるが、決して悪魔そのものではない。悪魔の類に似た形状を持った人種の事だ。

肌は浅黒く、背には黒い蝙蝠の翼、尖った細い尾と耳。そして、血色をした赤い目。

部分的に悪魔のような特徴を持っている為、他の人種からは嫌われがちな人種で、今までは南洋諸島にひっそりと暮らしていた種族だった。

しかし、数十年前に世界各国の長が集まる「議会」において、聖ホーストン教皇国が悪魔族を「人間」の枠から排除せよと強く押した為に彼らは魔物と同じ扱いを受けるようになった。

ホーストンはヒト族…一般的な人間だけを「人間」と認める国ゆえの案だった。

それに、ホーストンは古来から存在する大国ゆえ、当時の国々は認めざるを得なかったわけだ。

イー・ヴァー・ディドル龍帝国は最後まで断固拒否したが、結局多数決で悪魔族は人間の枠から追放される身となったのである。

今では悪魔族はほぼ滅んだとされているが、まさか東の大陸に逃れ、神国に逃れていたとは。

その悪魔族の生き残りが、今目の前にいる。それがこの少女だ。

もちろん彼女も例外でなく、神国の住民で、神国兵としてこの戦争に参加している事は間違いない。

しかしこれが、なかなかに厄介な事になっていた。


「…つーことは、俺達の敵で間違いないじゃないか」

「でもあたしはシオン様の味方でーす」

「いやそうじゃなくてだな、つか離れろ」


ちゃっかり「様」付けまでしてシオンに抱きついたままの少女は何があったのかは知らないが、


「嫌ですよぅ、あたしぜーったいにシオン様から離れませんからねー」


更にぎゅうぅ、と抱きつかれてシオンは苦しそうに身を引いた。

なんというか、一目惚れされたらしい。

惚れられた当の本人は困惑しっぱなしだが、結構慣れてきたようだ。


「シオンさんも隅におけないですねぇ、いいじゃないですか、女の子に好かれるのも」

「昔っから女に寄られてるお前だけには言われたくねーな」

「あー、ひっどい。俺女好きじゃないですよー。お嬢さん、こんなつれない人やめた方がいーよ?自分勝手ですぐいじけるし」


なんだかシオンをけなしているようにも聞こえるが、これでも一応、少女を離そうとしているのである。

なんたって今は緊急事態。急いで謁見の間まで行かないと、陛下の身に何かがあったら大変だ。

しかし少女は、帝国の女性なら知らぬ者はいないデンの美男子顔にちらりと目を向けてこう言った。


「あたし、優男には興味ないの。男なら体張って女の子助けなきゃ、ねーシオン様ぁv」

「……助けたわけじゃないんだけどなー」


つまり、偶然に偶然が重なって掛け合って何乗もされた結果、シオンが「か弱い女の子」を助けたという事になったのである。

もちろんこれは勘違いである。シオンが助けたかったのは、部屋の扉なのだから。

そういえば、何故少女は扉を壊そうとしていたのだろう。

シオンはふと思い出して訊いたところ、返事は、


「中に魔法使いが立て篭もってるの。部屋全体に結界が張ってあって入れなくて、ずっと叩いてたんだけど」

「別に慌てなくても平気でしたね、シオンさん」

「…結果的に一人の命が救えたんだ、別にいーだろ」

「そーだそーだ優男!可愛い女の子の人口が減るのは世界の一大事でしょ!!」

「別に優男じゃないんすけどねぇ。世界の一大事っていうのは賛成ですけども」


そんな事言うから女好きと勘違いされるんだ、お前は。

アロドからの視線が痛いなと思いつつ、少女に抱きつかれつつ、シオンは小さく呟いた。


「ってぇことは、中に人がいるんだな?嬢ちゃん」

「プリム、よ。嬢ちゃんだとなんか怪しいおじさんの台詞みたいだから」

「………俺はおじさんかよ」


おじさん呼ばわりされたレスは、一応今年で20(だと自分では思っている)だ。

横で事の成り行きを見ていたアロドが吹いたが、それに気づいたのはシオンだけだった。

あ、よかった。視線が逸れた。


「じゃ、結界解除して中の人間助けなきゃな。プリム、だっけか、とりあえず一旦離れててくれ」


プリムが抗議の声を上げるが、有無を言わさずシオンがべりべりとその腕をはがした。

結界を長時間維持するのは相当な魔力を消費する。

早く結界を解除して、中の人間と合流するのが先だろう。

腰についたいくつもあるポーチのうち、一つから符を取り出した。

流派はアロドと同じの為、符の形状も字もアロドと似たものだった。

中央に「解」と書かれている。符は文字によって用途が異なり、この種の符は呪いや結界を解くものだ。


「禁解、滅」


ぱちん、と小さな音がして結界が破れる。

不可視の結界の欠片は宙に四散し、炎属性の魔法で張られていたらしい、小さな火になって消えてしまった。

こんなにもあっけないとは、中の人間はもう魔力をかなり消費していたに違いない。

慌てて観音開きの扉を押し開け、中に入る。

懐かしい、古い本独特の匂いが鼻についた。

壁一面、内側にも均等に並んだ本棚は入り口付近だけ狭い空間がある。

そこに、長身の男が倒れていた。


「おい、大丈夫か!?」

「…味方…ですか?」

「ああ。相当魔力を消費したみたいだな、もう外に敵はいないから安心しろ」


半分嘘で、半分本当の事を青年に投げかける。

何せさっきまで敵で、突然「味方になりますぅv」と言ってシオンに抱きついてきたわけだし。

シオンはうつ伏せに倒れていた青年を反転させ、仰向けにさせてやった。

この様子だと、彼は帝国魔術師団員らしい。手には魔道書らしきものを持っていた。

目深に被った古い帽子には穴が開いていて、ちょこんと黒い獣の耳が突き出ていた。

見れば、穴だらけのマントの横から黒い豊かな毛を持った尻尾が出ていた。

青年は、黒狐の獣人族であった。

獣人とはその名の通り、獣の肉体の一部を体に宿した種族の事である。

この世界ではヒト族の次にポピュラーな人種であり、その数も多いが、外見の違いからかヒト族と対立することもしばしばある。

その為、ヒト族から迫害された獣人達が国を建てた事もあり、その国は亜人国リトナードという呼称で今も存在している。

が、ヒト族と獣人族はどこも仲が悪いわけではなく、中にはこの青年のように、ヒトの中で暮らす獣人もいるのだ。

青年は顔にかかった黒い髪を払おうともせず、突然起き上がってシオンに掴みかかった。

細い腕の割りに、成人男性並みの腕力はちゃんとあったらしい。


「早く、早く皇帝陛下にお伝えしないと…!」

「お、落ち着け、魔力を大量に消費してんだ、あんまり動くな」

「しかし、ごほっ、国に…関わる……」


ずるずると、腕がシオンの肩から落ちていく。

その拍子に帽子がずれて顔があらわになり、両頬に呪術的な効果のある刺青があるとわかった。

顔は蒼白色をしていて病人のようではあるが、なかなか、デンと張れるくらいの顔立ちであった。

しかしもてなさそうだなと、シオンは思う。なんだか不幸背負ってる感じがするから。

そんな事を考えている場合でもなかったけれど。


「とりあえず、落ち着け、折角助けに着たのに死なれちゃかなわん」

「陛下に、言伝を、お願いできますか…?」

「安心してください、俺もいますから。絶対、陛下に届けます」


横に来たデンが言う。騎士団長であるデンならば、国の者は信用するだろう。

黒狐の青年も例外でなく、安心したように息を吐いた。

そして、言う。




「敵の目的は―――――――――…「龍」、です」










偶 然 の 一 致 ほ ど 怖 い も の は 、 な い 。





+++

第六話。
時間がないので手っ取り早く。

フォクスさんなんか勢い的に死にそうなんだけど今の状態orz

07/3/18




スポンサーサイト
【2007/05/25 22:59 】 | 未分類 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
<<第七章・龍の住まう家の、神ならざる神 | ホーム | 第五章・その笑顔は小悪魔か、大魔王か>>
コメント
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバックURL
http://maskdsamoyed.blog106.fc2.com/tb.php/8-a70f2825
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
| ホーム |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。