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第五章・その笑顔は小悪魔か、大魔王か

「何よ、この結界!全然壊れないじゃない!!」


がん、がんと扉を斧で割る音が、石造りの廊下に響く。

決して小さな物ではない斧が、扉を、否、正確には結界を何度も叩く。

その斧を振るうのは、大きな戦斧に似つかわしくない小さな少女だった。


「でーてーきーなーさーいーッ!!じゃないとあたしが怒られちゃうんだから!か弱い女の子を困らせるつもり!?それでも男なの恥を知りなさい!」


大の大人でも十数回振れば疲労が貯まるであろう大きな戦斧を、軽々と扉に打ち付ける人間を「か弱い」とは言わない。

だがしかし、そんな突っ込みを入れてくれる心優しい人間は、いなかった。

何せ扉の中の人間も必死なのである。

声は聞こえているだろうが、返事をする余裕もないに違いない。

それだけ強力な結界を維持するのはかなりの魔力と精神力を浪費するのだ。


「もう!あんたなんか結界が破れたらこてんぱんにのしちゃうんだから!!」


がいんっ、と耳障りな音を響かせ、強烈な一撃を結界に打ち込む。

しかし結界はびくともしない。それほど、この結界は強力だということだ。

少女は背中の小さな翼を使って外から進入してやろうか、と考えて、いいや無理だろう、と諦めた。

何せ扉ではない壁の部分、隣の部屋からも、この部屋を叩いてみたが全て結界が張られていた。

とすれば窓側もきっと結界が張られているに違いない。余計な力は使いたくないから、やめておこう。


「あーあ、いつまでこんな事しなきゃいけないのかなぁ…」


ぺたり、と結界に寄り掛かってその場に座り込む。

戦火の熱気で火照った体が、石の床で冷えて気持ちよかった。

思えばあれから何年経ったろう。

自分達の種族が異端視され、迫害され、神国へと逃亡し、神国の住民として扱われる代わりに「人間の」兵士として徴兵され。

そうでもしなければ、自分達はこの世界では生きていけない。そんな事に、なってしまった。

これでも「人間扱い」してくれる神国には感謝している。してはいる、が。


「でも…こんなのって、ないんじゃないかな」


自然の魔力を吸って、国周辺の土地を不毛の大地にするなんて。

青々しい木々に、漆黒の葉を宿らせるなんて。

敵国を襲い、魔術師を攫うなんて。

そして、子供でも兵役に借り出すなんて。

自分はともかく、自分の友人や、妹や弟のように可愛がった子供達はどうなったのだろう。

ちゃんと、生きているだろうか。

自分の家族はもういないから、その分心配事がそちらに向かってしまう。


「大丈夫かなぁ、皆…」


自分は強いからいいけれど。

あの泣き虫の少年は無事なんだろうか、しばらく会っていないけれど、死んでたりしたら、どうしよう。

なんだか暗い方向へ、思考が、ずるずると引き擦り込まれていく。

それに気づいて、少女は溜息をついた。


「はぁ……こんな暗い事ばっか考えてたら、素敵な人と巡り会えないよねー」


そんな心配をする辺り、結構図太いのかもしれない、この少女は。



***



「な、ん、か、よっ!アリみてーにわらわら出てくるなこいつら!!」

「多分こいつらは魔力も十分に通っていないような雑魚なんだろう、質より量ってやつだな」


ばさり、ばさりとレスが二本の刀で敵を三枚に下ろしている横で、シオンが暗殺ナイフで敵の首を掻っ切る。

シオンは元々、魔術師(アルダ)よりも高位の魔道師(マグラ)で、もちろん魔法を得意としている。

だが、様々な技を習得しているシオンは魔力の浪費を嫌がり、雑魚はナイフで倒す事にした。


「しかしまぁ、なんつーか、悪趣味だなぁ」

「何が」

「こいつら。無駄に人間らしい体してるくせに、心がないんだぜ」

「それは私も同感です」


レスの言葉に、アロドが答える。その手には符が数枚握られている。

貴女は歩く爆発物ですか、と、デンはひっそり思う。

ひっそり思うだけで口にはしない辺り、すぐに物を言ってしまうレスとは逆である。


「下手に人間に近いと、倒すのを躊躇ってしまう兵士もいますしね」


ぶん、とその腕を振って、飛び掛ってきた人形を二、三体粉微塵にする。

どこをどう躊躇っているんですか、できれば自分に説明してもらいたいものだと、心の中で再び突っ込む。


「アロド、あんまり派手にやるなよ。そんなんじゃ嫁の貰い手もいなくなるぞー」

「父上、今はそんな心配している場合じゃないでしょう?」

「ま、そうだな」


戦場で笑うシオンとアロドの背後で、大の男二人は薄ら寒いものを感じていた。


「…あれじゃ尻に敷く方だよなぁ」

「ですねぇ。俺はもうちょっと大人しい子が好みですけども」

「ま、未来の旦那に合掌、と」


なむなむ、と二人揃って手を合わせた。

未だ見ぬ、きっと可哀想なことになる、アロドの相手はどんなだろうな、などと思いながら、デンは敵を打ち倒す。

多少の笑劇があっても、ここが戦場であるのは変わらない。

デンはとぼけた顔で、鋭く周囲を見回していた。


「うーん、あらかた片付いたみたいですねぇ」

「仲間呼ばれちゃ敵わん、早くミオの所行って親玉倒すぞ。こいつらはただのオトリだ」



***



それから後は意外とあっけなかった。

人形達はシオン一行には適わないと思ったのか、それ以降余り手を出してこなかった。

その代わり、城下に散らばって戦っている騎士団員達を襲い始めたが、きっと大丈夫だろう。

デン曰く、「あいつらなら自分の身くらい自分で守りますよー」とのこと。

そして、こうも付け加えた。


「この程度で死んだら鍛錬サボってたに違いないですよね?死んだら連れ戻して俺が制裁加えますからー」


普段仕事はサボってはいるが、「鍛錬を怠るな」「武器は整備しろ」「馬は大切に」「忠誠心を忘れるな」がモットーの騎士団長。

それを怠ったということは、つまり。

斧槍(ハルバート)を煌めかせたウィノデン・アルノー・トリシャ騎士団長はとてもいい笑顔だった。

…そこらの騎士の張り切りようが急に目立ったのは、言うまでも無い。


ともかく、一行は難なく城に潜入できたという事である。

帝国唯一の城である王城は、実はそれほど大きくはない。

とは言っても他国の城と比べているだけであってちゃんと大きさはある。

首都の街の中央に大きく聳え立つ城は中央が一番高く、中は国家機関の中枢である。

そして中央の城をぐるりと囲み、城下街の中に四つの離宮が設けられている。それぞれ、東西南北に分かれていた。

離宮と言っても、実際皇族が住まいとして使うのは東の離宮だけであり、その他は国の施設として使われる。

北の施設は帝国騎士団の兵舎。デンが日々寝泊りしているのもここだ。

西の施設は国の領主が集まり、政治を話し合う議会場兼書物殿。アロドがここと、皇帝の間をしょっちゅう行き来している。

そして、南の施設は帝国魔術師団の兵舎兼魔術研究所。新しい魔法を考案したり、精霊を召喚したりと忙しい場所だ。

その三つの施設を最終的に統治するのが、中央の城である。もちろん、王座もここにある。

城には騎士団長、魔術師団長、皇帝三人の執務室や来客用の部屋、広間などがある。

他の国の城よりもなりは小さい癖に、結構充実した城であった。


「意外と、城の中はそんなに酷くねぇみたいだな」

「石造りだからな、燃える物がなきゃ燃えないだろ」


城内を歩く四人と一頭。室内では馬に乗れない為、デンは愛馬から降りていた。

一応城内は天井も高い為、馬に乗っても十分余裕はあるが、シオンに睨まれたのである。

ここは国の大切な場所。余り暴れるなというのが、国の守護者である彼の言い分だ。

しかし重い武器と、軽装備とはいえ鎧を着ているデンはどうやっても三人よりも遅くなってしまう。

仕方なしに、本来急がなければいけないのに、全員が歩く羽目になったのだ。

もちろんデンは少し、いやかなり、不満だったわけである。


「燃える物、ねぇ」

「どうしたデン?」

「いや、なんとなく…ほら、すっごく燃えそうなものあるじゃないですかー」


ちらり、とデンが上の階に目を動かす。

つられてシオンも視線を上に動かして、顔を青くした。


「………」

「ほら、シオンさんの大事な大事な魔道書とかー」


この中央の城には、今は不在のロッソ・ヴァン・ダルダム魔術師団長が管理する、魔術書の書庫もあったりする。

ちなみにその「ロッソ」とはシオンの仮の姿である。職権乱用で自分の書庫を作ったのだ、この少年は。

そのくらい自分の集めた本を愛しちゃってるわけだ、こいつは。

もちろん魔術師団員には貸し出しするが、返さないとふてくされる。汚すと激怒する。破れば、押して知るべし、だ。

その本が今まさに燃えようというのである。彼にとっては一大事だった。


「デン何ちんたら歩いてんだお前早く行くぞっ」

「えーでも俺あんまり早く走れないんですけどー。馬使わせてくれたら追いつけますよー?」

「ああわかった、わかったから、早く走るっ!」

「さっすがシオンさん、話がわっかるぅ♪」


ひらりと愛馬に飛び乗り、その後ろにアロドを乗せるデン。

シオンとレスはかなり足が速い。もしかしたら、馬に勝てるかもしれないくらいだ。

しかしアロドは一般人(というと二人がまともでないように聞こえるが)なので二人一緒に獣馬に乗るわけである。

獣馬は細く、しなやかな体の割りに、結構力がある。これだけの重さでも軽々と階段を跳躍した。

その途中、アロドがデンに、小声で囁いた。


「騎士団長様」

「なんですか、アロドさん?」

「こう言ってはなんですが…父上の扱い、上手くなりましたね」

「まぁ、陛下と一緒にいたらなんとなくわかりますよー」


にんまり笑顔で答えるデンは、結構いい笑顔をしていた。

その会話にシオンが気づいている様子はない。完全に気が違う方に向いているからだ。

全員が階段を一気に駆け上がり、そして――――




そして、三階に辿り着いた一行が見たものは。


「あ」

「あ」


背の低いシオンよりも小さい少女が、結界の張られた扉に戦斧を振るおうとしている所だった。

その扉の向こうは、シオンの大事な書庫。


…ここであえて言っておくと、結界というのは実際に触れてみないとわからないのである。

もちろんそれはシオンでもミオでも、見ただけでは判別はつかない。

ある種の道具や魔法などを使えば判別はつくが、この時の彼には余裕がなかった。

何せ自分の大事な書庫の扉が、叩き壊されようとしているのだから。


三階に着いた瞬間、シオンがそれを止めようと駆け出したのは、仕方ない、彼にとっては当然の事だったのだ。

だから、その少女ごと始末しようと待ち伏せしていた人形に気づかなかったのも、きっと彼のせいではないのだ。



たぶん。










そ の 笑 顔 は 小 悪 魔 か 、 大 魔 王 か 。





+++

第五話。

なんか暗いのでギャグっぽく。
いえ狙ったつもりはありません。インフルエンザのせいです。
今結構熱高いです。でもネタの神様が光臨したのです。
結果、デン様が妙に腹黒くなってしまった罠。

あ、タイトルはデン様の事です。にやにや(´∀`)

07/03/16

07/06/18修正・東の離宮が二つもあった。西の離宮はどこへ消えた(笑)




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【2007/05/25 22:58 】 | 未分類 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
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