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第四章・僕達にできるたったひとつのこと

「困りましたね」


呟いた。


「本当に、困りましたね」


もう一度、呟く。

この部屋の外には敵がいて、幾人もの魔法使いが連れ去られている。

もちろんこの部屋だとて安全な訳ではない。

私の頬を、汗が垂れる。

扉が、叩かれている。正確には、扉にかけられた、結界が。

元々私は体が丈夫な方ではないし、接近戦をされれば苦戦を強いられる魔術師(アルダ)だ。

敵が大勢であれば、逃げるしかない。結界を張って、部屋に閉じ篭る。

捕まれば間違いなく、強力な魔力制御装置を付けられて敵兵に連れ去られるだろう。

今はこの部屋―――魔術師団長の残した巨大な書庫――を、死守するのが先決だ。

別段、本が大事な訳ではない。いや、大事ではあるがそれよりも、自分の身を守るので精一杯なのだ。


敵の目的を、敵の正体を、知ってしまった。


それはただの偶然だった。

敵襲と知り、魔術師団は防衛に回ったが、瞬く間に全員捕虜にされてしまった。

そう、大規模な範囲での「魔法封印術」をかけられて。

あれほどの規模で、あの術が使える人間はそうそういない。敵は、とても強い。

私はその術の範囲外に偶々いたから逃げられたが、逃げる途中、聞いてしまったのだ。

城に入った敵兵の言葉を。


「伝え、なければ」


誰に?皇帝に?それとも、魔術師団長に?

誰でもいい、とにかく、誰かに伝えなければ。

彼らの狙いは、帝国の国土ではない。ましてや、財産でもない。

たった一つの目標の為に、彼らは動いている。

そしてその為に、多くの魔術師が捕らえられている。


「主、顔色が芳しくない、無理はするな」


私の中から聞こえた声。それは、ずっと昔に契約した精霊の声だった。

魔法使いは単身でも魔法は使えるが、精霊と契約する事で更に強力な魔力を得る事ができる。

しかし、契約するには精霊以上の力が必要となる。その為、契約精霊をつけた魔法使いは少ない。

私の場合は例外で、どういうわけかこの精霊に好かれてしまい、訳も分からず契約してしまったのだが。

それでも、この精霊は一心同体の仲間であり、心強い友であった。


「いい、え。凄炎(せいえん)、もし私がここで捕らえられたら、国は終わってしまう」

「ならば我が護る。結界を解け、我は主に指一本たりとも触れさせはしない」

「そうすれば貴方が傷つく」

「構わぬ、主を護る為ならば」

「いいえ、駄目です。私が許しません」


精霊とて怪我をすれば傷はつく。痛みもある。死んでしまえば蘇るが、記憶を無くして、契約も切れてしまう。

それだけは、嫌だ。自然と腕に力がこもる。

扉の結界は、私が最も得意とする炎属性の結界だ。戦火の広がる今ではその威力も大きい。

しかし、その力がいつまで持つか。

凄炎の力を借りているとはいえ、魔力にも限界はある。持って、あと30分。

その間に、味方が来るとも限らない。しかし、待つしかない。

もしも万が一、と想像して身が震え、黒い耳と尾がぺたりと体に張り付く。

それでも、私は。

私は、精霊と、この情報を守らなければ。


それが、ろくに戦えもしない、私のできるたった一つのこと。



***



「マリア、ネッタ…?」


なんだそりゃ、とレスが首を傾げる。

レスが無知な訳ではない、デンも、アロドも、その文字列に聞き覚えはないようだ。


「知らないのも無理はない。相当昔から極秘に研究されてきた技術だ。まさか、完成していたなんてな」

「そのー、魔道人形、でしたっけ?本当に「人形」なんですか?」


そう、デン。

先程手刀を加えて絶命させたその、「人間に似た人工物」は物音一つ立てない。

どう見ても、人間の死体にしか見えないそれは、物言わぬ「物」だとはとてもじゃないが思えなかった。


「何ならレスみたいに飲んでみるか?まだ残ってるぜ」

「遠慮しときます。さっきの見てて不味そうなのはわかりましたから」

「普通の人間ならな。アロド、飲んでみろ」

「わ、私ですか!?」

「お前なら平気だ、符術はちゃんと使えるだろ?」


それは使えますけれど、とアロドは口籠る。

しかし尊敬してやまない義父の言葉にとうとう折れて、その液体を指に浸す。

恐る恐る、それを口にした。


「……………………………………あ、れ?」

「な、平気だろ」

「はい、というより…甘い、です」

「だろー?」


唖然とするレス。分けがわからないデン。

先程レスが味見して、あれほど不味い不味いと連呼していたのに、この差はなんだと。

別にレスは演技をしていた訳でもなく、嘘を吐いた訳でもない。

ならば何故、と疑問符を頭上に乗せた二人を横目に、シオンはその液体を全て飲み干した。


「お、おい…平気なのかよ?」

「へーきへーき。この赤い水、術者にとっては良薬にもなるんだ。表でも裏でも、取引はされていないけどな」

「え、つまり…俺は術者じゃないから駄目って事かよ」

「ああ。デンなら平気だったかもな、魔術の心得は多少あるだろ?」

「ええ、まあ、一応聖騎士(パラディン)ですから」


騎士にも様々な種類がある。大きく分けて、魔術騎士と武装騎士の二つだ。

武装騎士はごく一般に知られる騎士の事だ。武器を使用し、戦場を馬で駆け巡る機動力のある戦士である。

魔術騎士というのはその名の通り、機動力があって魔術を使用できる騎士だ。

イー・ヴァー・ディドル龍帝国ではこのタイプの騎士は珍しくない。

元々魔術に特化した国である、騎士であっても炎を出したり小さな傷を癒したりするくらいの魔法はできる。

もちろんデンも例外ではなく、神聖属性、つまり回復魔法が使える「聖」騎士であり、魔法は使える。

だが、その能力も余り目立ったものではなく、斧槍を振るう姿はどちらかというと武装騎士寄りだ。


「でも、何故術者とそれ以外で味が変わるのですか?」

「答えは簡単だ。この水は、魔力が通っているんだ。術者なら魔力は好物だろ?」

「ああ、なーるほど」


ぽん、と手を打つデン。


「魔術の心得のある人間なら魔力を受け入れられるけど、それ以外は体が魔力を受け付けないんすよ」

「だから俺の場合、体が拒否反応を起こしたって事か?」

「ま、そーゆー事っすね」


うんうん、と横でシオンが頷いて、手に付着した残りの液体をべろりと舐めた。

あっという間に赤い色は、シオンの白い手から消えてなくなる。

そんなに旨いのか、信じられねぇ、とレスがひとりごちた。


「でも、水に魔力を通わせるなんて聞いた事もありませんが…できるとしたら、とっくに出回っているはず」

「水っていうより、これは魔力そのものだよ。抽出した魔力を凝縮させて、液状化した物だ」

「んな事できんのか?」

「ああ。凝縮して液状化する方法は知らないけど…抽出には、ちょっと、法とか、人の道外すんだよなー」


聞きたーいー?と、シオンがにやっと笑って思わせぶりな仕草をした。

知らない事だらけで好奇心が完全に顔を覗かせていた三人は、こくこくと揃って頷いた。


「魔法使いの魔力を、使ってるんだよ。もちろん魔力を全て取られた魔法使いは死んじゃうけど」


「ぶ、なんつーもん飲ませてんだあんたはー!!!?」

「わ、私…美味しいと思ってしまいました…ッ!!」

「よかったー俺飲まなくて」

「ああ、大丈夫大丈夫。この凝縮液はあんまり質がよくないから、大気中の魔力使ってるんだと思うよ」


予想通りの反応にからからと笑うシオン。

知らなかったとはいえ、うっかり飲んでしまった二人は揃って溜息をついた。

仲は悪いが、思う事は同じだった。なんて物を飲ませてくれたんだと。


「で、わかったろ?こいつは魔力凝縮液を血液の代わりに使って動いている、人形なんだ」

「でも、その体はどう見ても…」

「これも人工物だ。よく出来ているけれど、本物の肉じゃない。肉にしか見えないけどな」


はぁ、と今度はシオンが溜息をついた。


「随分と前にこいつらの噂は聞いていたんだけどな、まさか本物だとは思わなかった」

「って、シオンさん知ってたんすか?」

「ああ。……かなり、嫌な思い出も色々と出てくるんだけども」


苦々しい顔のシオン。どうやら、相当思い出したくない記憶のようだ。

デンはそれ以上深く突っ込むのをやめて、黙る事にした。

誰にだって聞かれたくない過去の一つ二つはある。自分だってその一人だ。


「でな、話は戻るが…この、魔道人形が暮らす国がひっそりとあるらしいんだ」

「魔道人形の、国、ですか?」

「ああ。どこにあるのかはわからないが、魔道人形が統治する国があるんだそうだ」

「…………」


「その国の名は、神国フィラータという。」


フィラータ。それは、古代語の「フィー」と「ラーター」を合わせた造語。

操り人形(フィー)の、幻想曲(ラーター)。


「全ての魔道人形の元となった「神」…つまり、国主を始めとしてほぼ全ての住民が魔道人形なんだそうだ」


人形の国。

子供が描くような、夢のような想像しか思い浮かべられない言葉だ。

しかし彼らは、実物を見てしまったのだ。まるで悪夢のような、人間によく似た人形の、死体を。

次から次へと出てくるイメージは、醜悪な夢物語にしか思えなかった。

ごくり、と唾液を飲み込んで、レスは込み上がる吐き気を抑えた。


「………なん、つーか、想像もしたくねぇな」

「ああ。だけど、現実だ。俺も認めたくはないけれど、嘘や虚言じゃない。本当にあるんだよ」


全員が、大きく、息を吐いた。

人でないものが、人の形をとって生きている。

それはまるで、悪夢のようで、醜悪な幻想のようで。


ならばこの戦争は、操り人形の奏でる幻想曲とでもいうのか。

そう思うと、全てが壮大なオーケストラにすら聞こえてくる。


剣のかち合う音が、

炎の燃え盛る音が、

斬り倒された兵士の叫びが、

馬の嘶きが、

建物が崩れ、壊れる音が、


自分の荒い、呼吸さえも。


「つまり、これは――――――――」


シオンが腕を横に振るい、濃紺の外套が夜風に吹かれてはためく。

その背後には、燃え盛る街が、城が、空が、炎を纏った壮大なパノラマが広がっていた。

まるで何かの絵画のような、その景色。


「神国フィラータの、仕業だ」


そう、これは「神」に操られた人形達の奏でる幻想曲。

幻のような、それでいて悪夢のような、覚めるわけのない現実。


「…行くぞ」

「どこに?」

「決まってるだろ」


シオンの瞳が、月の光を浴びてぎらりと輝く。

金色の瞳はさながら、獣のようで、穏やかな満月のようで。



「ミオの所へ、だ!」





この、壮大で醜悪な、夢とも幻ともつかない現実を奏でるマリオネット・ファンタジアを止める為に。










僕 達 に で き る た っ た ひ と つ の こ と 。





+++

第四話。

やっと正式タイトルを。マリオネット・ファンタジア。
そこ、GARNETCROWだとか言わない。一応スペルは違う。
「Marionette Phantasia」でどうぞ。
あれです、テイルズオブファンタジアの「Phantasia」で。
壮大なる、幻のような操り人形達の幻想曲を。

「人形」だけじゃなく、「人間」もなのですよ。

07/3/12




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