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序章・懐かしき貴方へ、平和を捧ぐ
とある帝国の、皇族が住む城。

その城の執務室にて、一人の青年が二枚の紙きれを手にし、ふぅと溜息をついた。

別段、疲れているわけでもない。かといって嫌な事があったわけでもない。


「一体何年経ったと思っているんでしょうかねぇ」


紙切れを机に放り投げ、呟く。

その紙にかいてあるのはそれぞれ、「しばらく帰らない」と「そろそろ戻る」といった文字で。

片方はほとんど擦れて読めず、もう片方は多少掠れてはいるが最近の物らしかった。


「でもそれはそれで、あの人らしいですよねー」


ひょい、とその紙を拾ったのはまた別の人間。こちらは動きやすそうな軽い甲冑を身に纏った、眠そうな目をした騎士だった。

いつ部屋に入ってきたのだろうか、青年はふと考え、まあいいやとすぐに投げ出した。

元来思い悩む性格ではない。そういうわけで、この手紙についても大した思いは湧かなかった。

どうせ放浪癖と面倒臭がりとトラウマが同居したような中身を持った人なんだから。


「で、これいつ来たんですかー?」

「二ヶ月前だね」

「全然帰ってこないじゃないですねぇ」

「まあそれはそれで、あの人らしいじゃないか。戻ってきたらそれをネタにしばらく遊べばいいしね?」

「うわ、あの人が可哀想だ…ご愁傷様ー」


へらりと騎士が苦笑いして、「そろそろ戻る」の方を机に放り出した。

何かと物騒な事を薄笑いを浮かべながら言う上司は怒っているようにも見えなくも無い。

騎士はここ十年帰ってこない上司を思い浮かべながら、「しばらく帰らない」の方を眺めた。


「騎士団長様」

「げ、アロドさん」


がちゃりと執務室の扉を開けて入ってきたのは、眼鏡をかけた二十代前半の女性。

つかつかと入ってきた女性はそれなりに背は高いが、それよりも背の高い騎士に詰め寄った。


「また仕事を抜け出して!貴方は!!自分の立場をお判りですか!!」

「いやだなーちょっとした休憩だよー、そんなに怒ると美人が台無しだよー?」

「……そろそろ武力行使してもいいですか」

「暴力はんたーい。ですよね陛下ぁ?」


本当を言えば騎士団長が一介の女性秘書に負けるわけではない、が、彼は女性に手を挙げるのは好かない。

別に女好きでもフェミニストという訳でもないが、それに彼女は「あの人」の養女である。手を挙げれば戻ってきた時に殺されかねない。

騎士団長は陛下…つまりはこの国の皇帝の後ろに逃げるふりをして彼に同意を求めた。


「まあ暴力は振るってはいけないけどね。また抜け出してきたのかい?」

「いやーちょっと陛下の御身が心配で心配でー」

「しょうがないなぁ」

「でしょでしょ?」

「じゃあ私の権限で君の仕事を増やして給料を下げようか」

「げっ、そんな御無体なぁ」


しかし有言実行がモットーの上司は冗談でも本気でやりかねないので素直に仕事に戻る事にする。

とぼとぼと大型犬のように部屋を出て行った騎士団長の背を見送ったアロドは、机の上の紙を目にした。


「……父上、もう二ヶ月になりますね」

「心配?」

「はい。義理ではありますが、私の父であり恩人でもありますから」

「そうか。でも大丈夫だと思うよ、そう簡単に死にははしないと思うけど?」


それこそ天変地異が起こらなきゃ。

ある意味神の如き力を持つ、かの人物を思い出してアロドはくすくすと小さく笑った。

思えば妙な人物である。

表は沈着冷静なふりをして、かと思えば身内から見れば滅茶苦茶で猪突猛進で、とてもじゃないが賢者と呼ばれる人間とは思えない。


「案外、大食いだから食料が底をついて身動きとれないのかも」

「かもしれませんね」


懐かしい人を思い出して話に華を咲かせる二人。

温和な若い皇帝とその秘書が歓談している姿は、見る人がいれば微笑ましい物だ。

だが。



「陛下!陛下!!」


ばたばたがちゃがちゃと甲冑の音を響かせて扉を開けたのは先程の騎士団長。

珍しく眠そうな目が見開いていて、元の鋭い目が印象を変えていた。知らない人が見れば別人に見えてしまう程だ。


「騎士団長様、また抜け出して来たんですか!あれほど言ったのにまた…」

「アロドさん、それ所じゃないんです!!」

「どうかしましたか?」


息を切らせる騎士団長の姿に、只事ではないと察した皇帝が動じずに訊く。

相当走ってきたようだ、騎士団長は渇く喉を唾液で濡らして、ようやく話し出した。


「城壁の外に、軍勢が」

「…規模は?」

「わかりません、次々増えてきます…一個小隊毎に、何も無い所から、突然」

「参ったね、瞬間移動魔法のプロが敵にいるのかな」

「恐らくは。歩兵が多く、魔獣まで使役しているようです」


敵は恐らく、国家規模であると見て間違いない。

しかし近隣諸国で敵に回した国に覚えはない。

それに古くからあるこの国を敵に回せば、他の国から反感を買う事になる。どんな利益があるのか。


「全軍に出撃命令と、警備兵には民の避難指示を出しておきました。陛下とアロドさんも、姫様と避難の準備を。副団長が付き添います」

「いや、私はここで待ってるよ」

「でも陛下…」

「私はこの国をあの人から任されたんだよ、ならこの国を捨てて逃げる訳にはいかない」


十年前、あの人が己の無力を呪い、旅に出た時から。

そして、己の立場を知った時から。

この国の守護者はいない。ならば私が護るしかない。

貴方が愛したこの国を、貴方が護ったこの国を、今度はこの私が護ろう。


「トリシャ騎士団長、君も姫の護衛についてこの国を脱出しなさい。アロドも一緒に行くんだ」

「いいえ、俺は残ります、元々そのつもりでしたし副団長に話は通してありますから」

「私も残ります!自分の身は自分で守りますから、どうか」

「…まったく、融通の利かない子だな」


少し呆れたように、それでいて苦笑したように、皇帝は溜息をついた。


「二人とも、気をつけるんだよ。特にアロドは、危なくなったら逃げるんだ」

「はい」

「陛下もお気をつけて」

「平気さ」


机の上の紙を机の中に大切に仕舞い、引き出しの鍵を閉めた。

あの人が大切にしてきたこの国を壊されてなるものか。

それに、私は。


「あの人に次ぐ、この国で二番目に強い魔道師(マグラ)だよ。そう簡単にやられるものか」





戦火の気配は、すぐそこに。




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【2007/05/25 22:53 】 | 未分類 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
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