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第十一章・暗闇サンクチュアリィ

嫌な話を聞いてしまった。

とんでもなく嫌な話を聞いてしまった。

愕然とした俺の前で、デンがいつものニヤニヤ笑いを顔に張りつけて、シオンに話の内容を悟られないようにしていた。


「何、気にしなくてもいいんですよ、ちょっとした昔話ですから」

「いや、気にする気にしないの問題じゃないだろうが、お前」

「そうですかね?レスさんには関係ない話だと思うんですがねぇ」

「関係あるなしの話でもない」


そう、確かに俺はこの一件では完全に部外者だ。

だけど一旦首を突っ込んで、その意味も分かってしまった今では部外者面もしていられない。

もしそれが本当なら、シオンは今度こそ正真正銘の「疫病神」となってしまう。

当事者であるシオンが一番それを分かっているはずだ。


「そうですねぇ、レスさんの言う事も一理あり、です」

「…どうすればいい?」

「俺は貴方に何か期待している訳じゃないですよ?強いて言うなら、」


デンは悪戯っぽく笑ってこう言った。


「貴方が思った事をすれば、それでいいんです」


それでは、と言い残してデンは病室から出て行った。

シオンから言い渡された仕事をやりにでも行ったのだろうか。それを見た他の面々も病室から出て行く。

最後にフォクスが扉を閉めて、騒がしかった病室はあっという間に静かになった。

残ったのは、俺とシオンだけ。

しばし沈黙が流れ、シオンが口を開く。


「行かないのか?」


が、すぐに言い直した。


「ああ、そっか、お前ここの人間じゃないもんな」


遠回しに、関係のない人間だからと言われたような気がして、デンの言葉まで思い出して、ずしりと心が重くなった。

関係ない。そうだ、俺は関係の無い人間だ。

記憶を無くして倒れていた所を偶然拾われて、行くあてが無くてシオンに付いて行くしかなくて。

シオンの旅はもう終わったのだ。そうしたら、俺はもうシオンと旅をする必要はなくなる。

部外者である俺は、もう必要ない。


「…もう、旅はしないんだな」

「ああ。元々、十年前の事件を探る為に出た旅だからな。まあ真相は掴めなかったが」

「そっか」

「お前は、どうするんだ」


どうするも何も、そんなの俺が聞きたい。

シオンが帝国に戻った今、ここで暮らすのも悪くない。だが、一人で旅することもできる。

俺の出身と思われるホロ地方に出向いてみるのも一つの手だ。

デンが言っていた、「思った事をすればいい」とはこの事を言っていたのだろうか。

俺の望みは、自分の記憶を取り戻す事だ。

だとすれば、デンの言葉通りにするのなら、記憶を探す旅に出るのがいいのかもしれない。

一人で、記憶を取り戻す旅に出る。

そう話したら、シオンは珍しく穏やかな微笑みを顔に浮かべた。


「そっか、俺もそうした方がいいと思ってた。思い出せるといいな、お前の記憶」

「ああ」

「すぐに行くのか?」

「…ああ」


そうだ、俺には関係ないはずだったんだ。

この国はシオンが建て直す、それでいいじゃないか。

シオンはそう決めたんだ。

元々部外者の俺は、ああだこうだ言って、シオンの覚悟を邪魔をしてはいけない。


この思いは、シオンには言わずに、一人で抱えて、そして一人で朽ちてゆくのがいい。

それでいいんだ。

それで。


俺は床に落ちていた自分の荷袋を担いで、そして、ドアを開けた。







「じゃあな、シオン」

「じゃあね、レス」




振り向きもせずに、別れを告げる。

ばたん、とドアが閉まった。





そうして、俺は一人になった。



***



己以外誰もいない部屋で、シオンはじっと閉まったドアを見詰めていた。

しばらく見ていた所で、見飽きたのか、視線を下に逸らした。

ふぅ、と溜息をついてベッドに転がる。

アロド達の話では、慣れない闇魔法なんて物を使ったせいか、一時的に体内の魔力の流れが悪くなっているらしい。

魔法の心得のある者にとって魔力は生命の源、流れが悪くなれば走ることもできない。

医者曰く、午後には完全に復帰できるだろうとのこと。

それまでゆっくり寝ていろとか色々聞いたような気がする。

今まで十二分に睡眠を取りすぎたというのにまた寝ろと言うのか。


それまでの時間をどう過ごそうか、と考えた所で、こんな事を考えている場合じゃないのにな、と苦笑いした。


「さて、どうするか」


少し黄ばんだ、白いのっぺりとした天井を眺めながらぼやいた。

暇潰しの事ではない。かと言ってこの国の今後を考えているという訳でもない。


己の事だ。

117人の皇帝、女帝は皆「不慮の事故」で死に至った。

今までそれは己のせいではないか、大昔から不幸しか呼ばなかった己のせいだったのではないかと悩んできた。

しかし二千年経った今でも国は栄え、117人の犠牲者を出しながらもここまで生き延びてきた。

もしも己が不幸を呼ぶと言うのなら、国が滅びない理由が見当たらない。

だからきっと皇帝達が死んでいったのは己のせいではないと、騙し騙し生きてきた。


けれど、それも今日で終わり。

十年間、事件の真相を突き止めると銘打って、逃げるようにして国を飛び出したままだった。

あの時のように、初代のように、ミオを死なせたくはなかったからだ。

けれど十年経って、自分のいない間に隣国との諍いもなくなり、国は平和になった。

そろそろ、平気かなと思った。

それがいけなかった。

まるで逃げた己を責めるかのように、一気にツケを払わされた。

戻った途端、帝都は滅んだ。皇帝も連れ攫われた。

これでようやく、認めることができる。


皇帝が皆不自然な死に方をしたのは、己のせいなのだ。


わかりきっていたことだ。

認めようとしなかっただけだ。

あの気高くて優しい男を、己のせいで亡くしてしまったことを。

そして今度は、あの男に良く似た親友を亡くした。


「馬鹿だな…」


もっと早く認めていれば、ミオは死ななかった。

ひょっとしたら、先代の皇帝も、あんな無残な死に方をしなくても済んだはずだ。

もっと先の皇帝も、きっと。



俺がいなければ。



俺がいなかったら。



俺が、この国の守護神なんてものじゃなかったら。



そしたらきっと、こんな悲劇は起こらなかったはずだ。

そしたらきっと、こんなに悲しくはならなかったはずだ。


もっと前に国から出て行けばよかったんだ。

もっと前に認めていればよかったんだ。




もっと前に、―――――――――――――。











ふと、左を見ると、そこには背の低い棚があった。

その上には見舞いの品だろうか、果物が山積みになった籠が置いてあった。

じいっと、その場所を見詰めていた。




正確には、一緒に置いてあった、果物ナイフを。







「もっと前に、死んでしまえばよかったのに」







言ったのが早かったのか、行動したのが速かったのか。


言うのとほぼ同時に、


上体を起こして、


腕を伸ばして、


ナイフを握って、


両の手で逆手に持って、




腹へ。











「何してやがる」



手が、止まった。





「こんな事だろうと思って来てみたらあんた、何してんだ」


「………………じゃあねって、言ったじゃんか」





虚勢を張ってみるけれど、それはとても小さくて、泣きそうな声で。

俺はこんなにも弱いんだって事を実感した。



その男は、はっ、と鼻で笑ってこうのたまった。





「馬鹿か。あんなチンケな会話で縁が切れると思うなよ」







不適に笑ったレスの顔は、表情は見えないけれど、とても力強く見えた。










暗 闇 サ ン ク チ ュ ア リ ィ 。





+++

第十一話。

とぉっっっても難産でした!

もうどうしろってんだってくらいうまく立ち回ってくれないシオンとレスにいらいら。

結果、こんなうじうじぐだぐだな二人に。

レスはシオンにとってのヒーローでいいと思うよ、もう。

今回はやたら改行が多いのは気のせいではありません。

改行って不思議。その空間に何か特別言えないものが詰まってるの。

次の更新はちょっと早めにしたい。願望。

八月の更新は早いはずだ、がんがるお!


07/07/29




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【2007/07/29 23:49 】 | 未分類 | コメント(2) | トラックバック(0) | page top↑
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コメント
シオン様自殺はめっ!!!だよ!
次も楽しみにしてるね~☆
キャラ紹介のプリムってなんかプレセアみたい…。
【2007/08/03 22:26】 | URL | 若 #cI.fck.g[ 編集] | page top↑
うおお、若様コメありがとうございます!
ていうかぜんぜん気づかなくてすみません!!

プレセアぽいですかねー?
性格178度くらい違うような気がしますけど。
まあ、設定がそれっぽいですけどね。
シオン様自殺はめっ!だよ!がプリムのセリフに見えた件。

ではでは、気が向いたらまたコメお願いしますー。
【2007/08/24 22:07】 | URL | さもえど #F//T6OSQ[ 編集] | page top↑
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