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第九と二分の一章・ネイムレス・トーク
病院というのはどうにも清潔感がありすぎて軽い嫌悪を覚える。

そもそも俺は病院というのが苦手だった。あの薬品の臭いとか真っ白な建物とかあと注射とかな、怖くないけど。

兎に角俺は病院の中が駄目で、避難場所を捜し求めた挙句に病院の屋上に辿り着いた。

病院といっても城下町で数少ない、戦火を免れた小さな診察所だから屋上も当然狭い。

けれど愛用の煙管を吹かす為なら狭くったって平気だ。

あー煙が肺に染みる。


「病院内は煙草厳禁」

「うるさいな真面目女、お前はどこぞのクラス委員長だ」

「常識ですよ、不良男子生徒にしては身長も年齢も高すぎるレスさん」

「レスでいい、むず痒くなる」


階下から上がってきたのはシオンが愛してやまない義娘のアロドだった。

畜生、俺の安らぎのひとときを返しやがれ。今日一日疲れてんだ、なんで徹夜して戦ってたんだ俺ばっかみてぇ。

アロドはそんな俺の心情を知ってか知らずしてか、わかりました、と返事をした。


「で、何の用だ」

「父上の傍にいるとどうしても色々考えてしまいまして、気分転換にちょっと」


現在シオンはもろもろの事情の末、この診療所のベッドにご厄介になってすやすやと眠っている。

つまり俺達はほぼシオンのせいでここにいるわけである。

なんてこったい、俺なんか戦闘の興奮が残ってて寝付けないんだぜ。どうしてくれるんだよ明日。

煙管をぷかぷかとふかしながら戦場だった城下町の景色を見れば、空はうっすらと白んでいた。

ああ、グッバイ俺の睡眠時間。


「…………」

「…………」


それにしても、空気が重い。

思えばアロドとはつい数時間前に出会ったばかりである。話す話題も見つからない。

この場合話を切り出してやるべきか、それとも放っておくべきか。

いやいやそれとも…って何やってんだ俺は。


「あの、」


とかなんとか悩んでいるうちに、アロドの方から話を持ちかけてきた。


「父上の事を、聞きたいのですけども」

「はあ?」


我ながら間抜けな声が出たと思う。

何言ってんだこいつ、俺よりもシオンとは長いはずだろうが。

いや、もしかして旅に出ていた間の事を言っているのか?思い当たる節といえばそれしかない。


「旅の間の?」

「ええ、何か変わったことしてそうで」

「あんまし変わらないぞ、相変わらず猪突猛進で世界中駆け回ってた」

「……らしいですね」


思うところあったらしい、アロドが目を逸らした。

あいつはここでも暴走していたのか、よく二千年も持ったなこの国。

しかしこのままでは話は潰える。俺は必死でシオンに関する話を考えていた。

あ、でもそういや。


「あいつってさ、泣けるんだよな」

「泣く…ですか?」

「あいつが泣く所、初めて見た。ついさっき」

「ついさっき?」


あー、そういえばアロドには玉座の間で何があったかを話していなかった気がする。

丁度いい、ここらで話しておくか、と俺は腰を下ろして煙を吐いた。


それはシオンがエゲリヤとの遣り取りに敗北した時の事。



***



まずい。

これは、非常に、まずすぎる状況だ。

いや、シオンの正体が明かされてどうとか、実は守護神でしたとかもうそんなのどうでもよくてとにかくやばい。

シオンの瞳には、もはや生気は見られなかった。金色の月の色には光の一片すら見えない。


「…離れろ!!」


俺の一言で、シオンとエゲリヤの静かな攻防戦を見守り、硬直していた仲間達が我に帰って後方に飛び退いた。

途端、シオンの足元に闇色の液体のようなものが、ごぼりと湧き上がる。

ごぼごぼ、ごぼ、シオンの足元だけでない、さっきまで俺達のいた場所にも液体は湧いていた。

違う、湧いているんじゃない、這い上がってきている。

液体は形を成して、人の腕をとり、その腕が地に触れる度に、固い石の床は溶ける。ぶっちゃけきもい。

塩酸?硫酸?とにかくあそこにいたら酸性の何かで溶かされていたのは間違いない。

シオンには最早、俺達は見えていない。その目は絶望の色しか見えなかった。


「シオンさん!」

「デン、こりゃ言っても無駄だぜ。闇魔法使い始めたシオンは手に負えねぇ」

「どういうことよ、レス」


あいつの使う魔法はその時の気分で属性が異なる。

さっきまでシオンが使っていた魔法は火炎魔法。周囲の戦火を利用して炎属性の魔法を使っていた。

しかし今の魔法は何だ、負の位置に属する闇魔法じゃないか。闇魔法は、シオンの心を映し出しているんだ。

昔一度だけシオンの闇魔法を見たことがある。

その時も、シオンは無表情で、敵を殲滅するまで、魔法を使用し続けた。


「……………………」


絶望の闇の中に囚われたシオンは、足元の腕を操り、結界を強烈な酸で溶かしていく。

異様な腐臭を立てて崩れる結界を越え、シオンと腕は一歩ずつ、ずるずると引き摺るように歩いた。

一歩、また一歩、闇色の腕を従えた少年はゆっくりとエゲリヤに近づく。お前はどこのアンデッドだ。

流石のエゲリヤも、この状態のシオンを相手にする気はないようだ。一歩ずつ引いて、詠唱を唱える。


「ごめんなさいね」


驚いたことにこの女は謝罪を述べた。

もちろん俺達じゃない、きっちりシオンの方を向いて話す。


「事実は伝えなくてはと思って。でも、聞いて」


もうシオンには何も聞こえないだろうこと、このアマめ知ってるくせに。

そんな思いも知ってか知らずしてか、完全に手を出せないで蚊帳の外状態の俺達に視線を向けて、微笑んだ。

あ、笑えるんだ。


「今誰もいないから言える、貴方はその魔力を「神」に渡してはいけない。渡せば、世界は崩壊する。全てが、規則から外れるのよ」


ちょっとまて。

ひょっとして、あんたは、味方なのか?


「いいえ、残念ながら違うわ。忠告を施しただけよ…この世界に生きる、少し知りすぎた存在として」


訳がわからない。


「貴方はわからなくていい。伝えればいい。あと、」


そう言ってエゲリヤはちらりとシオンに向き直る。


「この、幸を持ったせいで不幸になった子を、頼むわ」


そうして敵は訳のわからないことをくっちゃべり、瞬間移動魔法の詠唱が完成し、逃走した。

同時に、俺達の背後で待機していた魔道人形も消える。

しかしエゲリヤさんよ。そんなこと言われてもな、この精神的にアンデッド状態の守護神様をどうすればいいんだよ。

俺達は顔を見合わせて、エネミーが消失して呆然と立ち尽くすシオンをどう復帰させるかを考えた。

しかし流石は守護神様、俺達がなんとかする前に魔法は風化して消滅する。

ちゃんと現実世界に戻ってきてくれたろうか、それを確かめるために俺はシオンに駆け寄り、呼び掛けた。


「シオン」

「…レス」


相変わらず濃度の濃そうな絶望色をした瞳をこっちに向けて、シオンは答えてくれた。

大丈夫とまではいかないが、精神状態は幾分かましになったようだ。淡く光が差し始めた。

けれどまだ、心に溶けた絶望は濃度80%ってところだ。口を開いた瞬間にシオンは錯乱状態に陥っていた。


「ねえ、どうしよう、レス、どうしよう、おれ、もう」

「落ち着け、落ち着けったら」

「ミオはいなくなった、父さんはもう笑わない、俺は、また、また…!」

「シオン、皇帝さんはまだ生きているはずだ、落ち着け」

「なんで、なんでまた、みんな、いっちゃうんだよ、おれ、は、また、ひとりじゃ、ない、か…っ!!」


ぼろぼろと涙を零して泣きじゃくるシオンは、とてもじゃないが推定五千歳以上の長寿さんには見えなかった。

なんだ。

いつも偉そうにしてて、凄い強力な魔法使って、守護神と呼ばれていて。

そんなあんたでも、涙流せるんだな。

そんなあんたでも、一人が怖いとか思えるんだな。

そう思うと、何だか、シオンが俺達と同じただの人間のような気がしてきた。

同時に、少し腹立たしい思いも。


「ばーか」

「え…」

「じゃあここにいる俺はなんだ、デンは?プリムは?下で待ってるアロドはどうなるんだ」

「…」


目を皿のように丸くして、泣くのも忘れたシオンは、そりゃ間抜けな顔だった。

そのくらいの方が親近感あるぞ、うん。

俺はシオンの頭を軽くはたいて、頭を抱え込むようにして抱き締めた。




「俺がいる、それじゃ駄目か?」




間抜け面のシオンは、困惑したようになり、それからはにかむように笑って、眠ってしまったのだった。



***



「俺、勘違いしてたわ。シオンは何でもできて当たり前、取り乱すなんてないって思っていたからさ」

「はぁ…」

「確かに五千年も生きているのかもしれないけれど、本質は子供なんだって知ってさ」


誰かが傍にいなければ生きていけない。

けれど、半永久的に生きるだろう彼は、必ず友の死を受け入れなければならない。

それを子供の心のままで、何度も何度も、経験してきたのだ。

シオンは決して強くない。例えるならば高名な硝子職人が作り出した、硝子製の大剣である。

強いけれど脆い。誰かがいなくなった後で一人虚しく、涙を流すのだ。


「だから俺はまだもう少し、シオンに付き合うつもりだ。」


目が離せないからな、と笑ってみせる。

アロドはそれに対して、名前を呼ぶことで答えてくれた。


「…レス」

「ん?」

「確かに興味深い話でしたけれど、一ついいですか?」


ああ、どうぞどうぞ。

ぷかり、と煙管からまた煙が浮かぶ。

まるで小さな雲みたいだ。


「私、貴方に謝らないと」

「何を?」

「貴方に冷たくした事。正直に言うと…嫉妬、とでも言うのでしょうかね。父上を取られたみたいで悔しかったんです」


まあなんとなく気づいていたけどな。

しかしファザコンも大概にしろよ、その年にもなって。知ってんだぞ実は俺より年上って。


「それで、旅の合間の事を聞こうと?」

「そうですね。ええ、そうです。でも、父上が貴方に信頼を寄せている理由が、何となくわかった気がします」

「はぁ…」


信頼といわれてもいまいちこう、ピンとこないんだが。

だってあいつ傍若無人なんだぜ、俺の事無視して暴走したりするんだぜ。

そう言ったら、アロドはくすくすと笑ってこう言った。


「それが、あの人なりの信頼なんですよ」

「えー…もっとマシなのないのかよ」

「あの人に常識が通じると思います?」

「いいえ、ないですねぇ」


お互いに顔を見合わせて、にやりと笑いあう。

なんだ、結構いいやつなんだな、アロドって。見直した。


「父上を、よろしくお願いしますね」


あと、笑うと可愛いんだなとか口が裂けても言えない。


突然、強い風が吹くと同時に、視界に眩しい光が視力を奪った。

朝日が昇り始めた。もう夜が明けるのか。

それにしても前髪がばらけて太陽光が直接目に当たるんだが、痛いぞこれは。

アロドは若干日陰の方にいるから眼球への攻撃は回避されたようだ。

徐々に目が慣れて、それでも眩しい朝日は戦火に焼かれた後の町並みを綺麗に照らした。

綺麗な景色だ。何かの絵画にありそうな、綺麗な景色だ。

ふとアロドを見れば、明らかに太陽光のせいじゃない赤みが頬に差している。


「顔、赤いぞ?風邪でもひいたか?」

「いえ、そんな訳では…」


よくわからんが、まあいいだろう。



徹夜の末に見れた日の出は、この荒廃した城下町がいつか復活するのを暗示しているかのように、輝いていた。










ネ イ ム レ ス ・ ト ー ク





+++

番外編というか閑話その一。

夜中に何書いてるの私。もう五時じゃない。
リアルで朝日を見てちょっと感動。それで最後のシーン。
レスの前髪の下はかっちょいいんですよ、個人的設定ですが。
つかフラグ立った?何のとか言わない。
アロドさんいいよね。

とりあえず9~10話の間に何があったのかっていうのと、レス&アロドが書きたかっただけ。


・07/05/27
朝五時に誤字発見、修正。うまいこと言ったつもりだ。




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【2007/05/26 04:44 】 | 未分類 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
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