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第八章・貴方の為と思い、想うから

静寂のみが支配する書庫で、アロドはすることを無くしてうろうろと部屋を彷徨っていた。

義父にはフォクスを護衛しろと言われたが、敵が来ないと暇なのだ。

いや、来てもらいたい訳ではないのだけれど。

暇とは、時として苦痛になるのだと、身に染みて理解したアロドだった。


「…あ」


ふと、その目がフォクスの持つ本を捕らえた。

義父が書いたという、歴史書。

フォクスとシオンの会話からすると、この本に義父の正体が書かれているらしい。

そういえば、彼がどうして子供の姿をしているのか、この国の守護者と言われているのか、アロドは知らなかった。

十数年前に孤児だった自分はシオンに拾われて、養子として育てられて。

姿が変わると知った当時は驚いたものだが、今ではもう慣れてしまった。

それが、当たり前だと、思っていた。


「……………」


手が、本に伸びていく。

義父が何者なのか、どこから来たのか、あの脅威的な力は何なのか。

自分と同じ人間なんだろうか。それとも、人間ではないのだろうか。ただの魔法使いなのだろうか。

知りたい。

知りたい。


「止めた方がいいですよ」


アロドの手が本に触れる前に、別の手がアロドを制した。

額に札を貼ったままの間抜けな状態で横になっていたフォクスの手だった。

その顔は相変わらずの微笑み。

どこか寂しそうな、微笑み。


「団長の口から話させてあげてください。あの人もそれを望んでいるはずです」

「……貴方が、それを言えるんですか」


どこか刺々しいアロドの言葉。

偶然とはいえども、勝手に義父の過去を見たくせに、と。


「言えませんね」


符の中身の魔力が尽きて、はらりとフォクスの額から剥がれる。

よいしょっと、と起き上がって体を動かし始める。完全に回復したのだろうか。

病的な白さの顔色は元々だったらしく、そのせいで回復したという感じがしない。

へなへなの帽子を被り直して、彼はもう一度微笑んだ。


「でも、知ってしまったから、言わなければいけないんですよ」


小脇に抱えた厚い歴史書を、大事そうに眺める。

知ってしまったから、この本の秘密を守るのが、他人の過去に触れてしまった罪の償い。

自分の中に潜んでいる精霊が「気にし過ぎだ」とぼやくが、そんな生易しいものではないのだ。

きっと、これは、彼の心の奥底にあるトラウマだとか、心の傷だとか、そういうものだから。

偶然発見したとはいえ、これを安易に他人に見せるべきでないと思ったのだ。


「第三者の私がぺらぺらと話していいことではないんですよ」

「でも」

「私は迷い込んだ通りすがりなんです。通行人Aが主役に重大な事を話してはいけないんですよ」


人差し指を唇に当てて、沈黙の意味のジェスチャーをする。


「これは、貴女と彼の問題なんですから。彼に言わせてあげてください」



黒狐は、にこにこと笑うばかり。

きっとそれは、そう遠くない未来だから。



***



「プリム!」

「はぁ~い、なんですかぁシオン様~」

「様付けしなくていいから。魔術師を捕らえるのも任務に入っていたっつーのは本当か?」


ここは四階の廊下。この上の階が謁見の間である。

廊下を駆けて行くのは四人と一匹。レスとシオンは足で、デンとプリムは馬で目的地へと向かう。

その途中、シオンがプリムに訊いたのだった。


「そうですよぉ、だからあたしはあのフォクスって人を捕まえる為に扉ぶち破ろうとしてたんですぅ」

「プリムちゃんってシオンさん相手だと対応違いますよねぇ」

「あんたみたいな軟派っぽい優男は信用できないのよ」


確かに自分がモテるのは自覚はあるけれど、そう言われると流石のデンも傷ついたようだ。

ひどいなぁ、俺そこまで女好きじゃないですよー、とぼやく。

そんな小さな笑劇を小さく笑いながら見つつ、シオンは全員に聞こえるような声で言った。


「だとしたらミオが一番狙われやすいな」


ミオは皇帝としての能力も優秀だが、魔法使いとしても有能だったしな、とシオン。


「それってやばいんじゃないか?」

「ん?」

「城の中まで敵がいるってことは、そのミオって奴の所まで来てるはずだろ?」

「ああ。けど、あいつなら返り討ちにするさ。よほどの事がない限り後手に回ることは無いよ」


あいつ敵には容赦ないしな。

にこにこと微笑んで高位魔術を連発してきた青年を思い出して、笑う。

十年前はまだ18という年齢の若造だったのに、誰よりも人と魔法の扱いに長けていた若い地方貴族だったのに。

今でもまだ若造の域にあるが、この国をその身一つで動かしてきた強者。


「なんでそんなに自信あるんだよ」

「あいつは俺の子供みたいな奴で、弟子で、親友だ。誰よりも信頼している。そんくらいの自信がなきゃ皇帝を任せたりしないよ」

「………お前マジでいくつだ」

「お前の何倍も生きてるからな、数えきれないくらいだよ、「若造」」


外見が子供の奴に子供呼ばわりされてレスは眉間に皴を寄せた。

もちろん、前髪のせいで外からは見えなかったのだが。

あともう少しで、謁見の間に着く。

あともう少し。

あともう少しで。



「レス!!」

「あ?…うわっ!」

「敵襲です!」


階段を一段、上った辺りで敵が転がり落ちるように上階から下りてきた。

実際転がり落ちる者、飛び降りる者、転んで仲間に踏み潰される者、様々といるが共通しているのは。

皆、無表情。


「味方だったにしても、ホント、こいつら気持ち悪いね」


獣馬の上から、プリムが大きな斧で人形兵士を屠っていく。

ごろんごろんと赤い液体状に凝固した魔力を散らしながら、人形の頭が階段を転がっていく。

プリムの言葉に、頷いて同意を示したデンはハルバートを振るって人形を数体同時に薙ぎ払う。

シオンは魔法で、レスは二本の刀を抜刀して、それぞれ道を切り開いて階段を登る。

上階に登った後も、やはり人形兵士が大勢待ち構えていた。

一人一人違う顔。人間らしい顔をしているのに、人間でない。

自然の摂理に反した存在、それが魔道人形(マリアネッタ)。

まるで人を斬ったようで、否、人を斬ったよりも気分が悪くなる。

次から次へと現れる人形に辟易しながらも、四人は敵を切り裂き、道を開き、観音開きの扉へと突き進む。


「全員、いるか!?」

「なんとか!雑魚も多すぎると厄介だな!!」

「こっちも何とかへーきですよー」


何故か扉の周囲に人形は近づこうとしない。ひょっとしたら司令官に中に入るなと命令されているのかもしれない。

ともかく、目的地に辿り着かなければいけない。

目の前の兵士を斬り倒し、蹴り倒し、しがみ付いてくる者を振り払って、何とか扉の近くまで着いた。


「そのまま突っ込め!雪崩れ込むぞ!!」


足に、首に、人形がしがみ付く。正直言って、邪魔だ。

中に入ればミオがいる。ひょっとしたら敵と対峙しているかもしれない。なら、一刻も早く助けなければ。

戦闘を走っていたシオンが最初に扉に激突。

その後ろから獣馬が横向きに体当たり、最後にレスが肩で扉を押し開けて、重い扉が開いた。

ずざぁっ、と音を立てて四人と獣馬が謁見の間に雪崩れ込み、その上に兵士が圧し掛かってくる。

このままでは圧死する、全員が思った瞬間、声が響き渡る。


「下がりなさい」


凛、と広すぎる部屋に女性の声が響き渡る。

それを聞いた兵士が一斉に立ち上がり、一分もかからないうちに部屋から出て行き、重い扉が閉じられた。


「シオン、やっと来たのか。待ちくたびれたよ」


今度は低い、男性の声。よろめきながら四人と一頭は立ち上がる。

大勢の敵に囲まれて無傷な訳が無い、細かい切り傷や打撲痕、衣服は赤い液体に染まっていた。

流石にあの数を相手にするのは無謀だったか。しかし大型魔法を撃つには時間が足りなく、強行突破しかなかった。

戦闘後の疲労を感じつつ、シオンは思い、自分を呼んだ者を見る。


「ミオ…」


黒い長髪の男が飄々と笑っている。

彼こそ、この国の皇帝、ミーア・ディロイ・ヴァムストル。通称、ミオ。

10年前よりもいくらか背は伸びたようだが、あまり変わっていない様子だった。


「本来なら再開の抱擁とかするべきなんだろうけど、状況が状況だから、そこは割愛させてもらうよ」

「お前な、そんな事言ってる場合か」


呆れたように、シオンが言う。

見れば、ミオは何者かと対峙していた。しかし部屋の照明がいくらか壊れているせいで暗く、顔は見えない。

どうやら、少女を人質にとっているようだ。

恐らくこのせいでミオは敵を一掃できないのだろう、それでも今まで敵と交渉して時間稼ぎしていたのは、人の扱いに長けたミオだからこそ成せる技だ。

しかし長く交渉していたせいか、人質を取っている人間は苛立っているらしい。


「いい加減にしろ!へらへら笑ってんじゃねぇ、こいつをぶっ殺すぞ!!」

「ひっ!」


少女が小さく悲鳴を上げ、身を竦ませる。

敵は口調からすると男だろうか。魔力の気配がしない為、魔道人形ではない、生身の人間だろう。

しかし司令官にしては短気過ぎる気がしないでもないが。


「ああもう、待ってられねぇ!このガキを殺されたくなきゃとっとと…」

「捕虜になれ、でしょう?何度も聞かされては覚えてしまいますよ」


にこり、と笑うミオ。

それが相手の怒りを更に上昇させたらしい、敵は怒りに震え上がった。


「畜生、殺してやる、殺してやるぞこの野郎!!」


その腕が天に向かって上がっていく。

手にした獲物は、炎に煌く大鎌。

遂にその怒りが沸点に達したらしい、人質を殺すつもりだ。


「待ってください」


相変わらずの笑顔で、ミオが言い放つ。

笑ってはいるが、その言葉は凛とした雰囲気を纏い、敵の動きを支配する。

鎌を手に、天に向かって腕を振り上げた姿で、敵は静止した。


「ああ?」


地の底から湧き上がるように、トーンの低い声。

気の弱い者ならば、悲鳴を上げて逃げていくだろう。

しかしミオは図太い神経の持ち主だ、微笑みながら敵と対峙する。


「シオン、後は頼むよ」


そして、シオンに向かって、心から笑ってみせる。


笑っていれば何を考えているかなど、誰もわからない。

過去にミオがそうぼやいていたのを、ふとシオンは思い出した。




「いいですよ、捕虜になってあげましょう」










貴 方 の 為 と 思 い 、 想 う か ら 。





+++

第八話
ミオ様は華麗にかっこよく美しく。
だって帝国三大美青年の一人ですから!

よし、次回はミオ様の美貌を苦痛に歪ませてやるぜ!(殿の依頼)

07/03/23




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