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【Marionette Phantasia】目次
目次です。

いちいち探すのが面倒な人向けです。

まずは【はじめに】からどうぞ。

次は【キャラクター紹介】とか行ってみるとスムーズに話がわかるようになるかもしれません。

見なくても話はわかりますがね。




【はじめに】


【キャラクター紹介】




【Marionette Phantasia】本編


序章・懐かしき貴方へ、平和を捧ぐ

第一章・嗚呼、何故貴方はそうも綺麗に笑えるのか

第二章・それでも俺は、貴方に付いて行く

第三章・それは悪夢より絶望的な真実

第四章・僕達にできるたった一つのこと

第五章・その笑顔は小悪魔か、大魔王か

第六章・偶然の一致ほど怖いものは、ない

第七章・龍の住まう家の、神ならざる神

第八章・貴方の為と思い、想うから

第九章・人ならざる、龍ならざる、半分の子供


第九と二分の一章・ネイムレス・トーク



第十章・虹色カタストロフィ

第十一章・暗闇サンクチュアリィ

第十二章・青空スマイリー

第十三章・錆色ノスタルジア

第十四章・ゴッド・ビー・ウィズ・ユー

第十五章・白羊、揺々ト思フ




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【2008/07/20 23:17 】 | 未分類 | コメント(1) | トラックバック(0) | page top↑
第十五章・白羊、揺々ト思フ
「塔」、それは神国フィラータにある全ての国家機関が寄り集まってできた超高層ビルの通称である。
円柱状に空に向かって伸び、天辺に円盤状の神殿と議会場のついたこのビルは、建築物として非常に不安定だ。
しかし、この国の頂点に立つ「神」デウス・エクス・マキナが膨大な魔力により塔を支え、そして外部から国が発見されないよう、周囲の地形と同化できる迷彩皮膜を塔の天辺から国周辺へと撒いている為に国は周辺国に発見されることなく平和を保っていた。
それゆえ、他のビル群を押しのけ、天高く聳え立ち、その最上階に神を頂く塔は、この国の象徴でもあった。
そんな「塔」の一階に、神国の国家公務員や軍人が使用する厨房は存在している。
今日も人々でごった返す食堂のカウンターの片隅に彼らはいた。

「はい、ラックルさん」
「いつもありがと、ケア」

笑顔で温かい料理の乗ったトレイを受け渡しする二人。
片や、手渡す方は真っ白い三角巾とエプロンを身に付けた、幼さの目立つ少年。
真っ白い衣装と髪の中、色を持っているのは肌と緑の瞳だけだ。
しかし希薄な印象は感じられず、寧ろその白さが目立つのとその元気な性格で人々に好まれる為に「塔」では知らぬ者はいない存在だった。
エプロンの胸元には、食堂の職員だということを示す名札がピンで留められていた。
片や、受け取る方は真っ白い詰め襟の服と同色の犬の尻尾が生えた半獣人の少年。
一応10代後半という年ではあるが、長く青い髪を後ろで一本の三つ編みに結っているので幼く見えるのと、低い身長と、ケアとそう変わらないように見える童顔のせいでいくつか若く思われる。
しょっちゅうその事で同僚にからかわれている為、彼、ラックル・ヴァンディオは「小さい」や「幼い」といった言葉には人一倍敏感だった。

「いやぁ、ラックルさん、俺なんかに礼なんかしなくていいっていつも言ってるじゃないすか」
「そうでもないよ、いつも世話になってるし、料理だってうまいし。そうそう、この間サイレスが誉めてたぞ、お前の料理美味しいってさ。いつか結界から出れたら教えてほしいって」
「マジっすか!?「双魚」さんに誉められるなんて光栄ですよ!」

わいわいと喜ぶケアを見て、ラックルは笑顔でこっそり思った。
だってサイレスの奴、料理苦手だしな。
しかしこっそりと胸の内に閉まっておく。
流石にそんなことがわからないほど子供というわけではない。
それに、そんなことよりも、聞きたい事があった。

「所でケア、お前、俺らの専属になるって聞いたんだけど本当か?」
「え?ああ、はい、そうですけど…」

なんでそれを?と言いたげな顔のケア。
ラックルは苦笑する。
サイレスの魔獣からの情報だなんてつまりは人権侵害だ、言えるわけがない。
いや人権と言っていいのだろうか、微妙な所だ。
まあ魔道人形の国ではケアも「人間」なのだし、深く突っ込まないでおく。

「ちょっと噂になってるのを小耳に挟んだからさ、確認しようと思って」
「へぇ、エルダ様が今日俺を推薦してくれたんすけど…情報って結構流出するもんですね」
「ははは、まぁな」

流出の原因は魔獣による盗聴盗撮です。
なんて、言えるか。

「俺、十二使徒様のお手伝いするのが夢だったんです。今度から部屋が汚れたとか服を洗ってくれだとか、全部俺に任せちゃっていいっすよ!」
「おー、宜しく頼むぜ」

張り切るケアに、ラックルは微笑む。元気なのはいいことだ。
十二使徒とはこの国で神の次の地位に属する、十二と一人で構成される「人間」の機関の事だ。
魔道人形の国である神国で人間が神の次に偉いとは、皮肉なものだとラックルは思う。
建国当時、十二使徒のように魔道人形の機関を置いた所、魔道人形に誤作動があって反乱を起こしたそうだ。
以来、国外から魔力や戦闘能力の強い人間や優れた頭脳を持つ者を受け入れては神の代わりに様々な仕事をさせているのだ。
中には建国当時から生きている者や、代々神に仕える者もいた。
ちなみに十二使徒の仕事は主に神の手足として政治、治安維持、国外での諜報活動など、表から裏まで様々ある。
ラックルとその相棒が担当するのは主に治安維持と諜報だ。
そのため、ラックルは国民との接触が他の十二使徒よりも多く、彼らからよく親しまれている。ケアがその一番いい例だ。

所で、魔道人形が大半を占めるこの国では、正式には人間は十二使徒とその候補生、そして魔道人形の技術者しかいないとされている。
もちろん例外もある。
一つは世界議会から人間と認定されていない悪魔族などの種族。
彼らは神国に忠誠を誓う限り、世界各国から追われることなくこの国の国民として扱われる。
しかし、国民ということは魔道人形と同じ扱いを受ける為、人の数に入れてもらえないのだ。
更に徴兵制があり、戦闘用魔道人形「オートドール」にできない戦闘は彼らにさせる。
国民とは言えど、扱いは国民以下である。ただ、十二使徒になれば話は別なのだろうが。
もう一つは、神国が建国される以前にこの土地に住んでいた人間だ。
彼らは神国の端にあるスラム街に押しやられ、国籍も与えられず、魔力の枯渇した土地を耕しては少ない食料を得て生活している。
しかし弱り切っていても今の処遇を改善すべくレジスタンスを組織していると聞く。
とは言っても、目立った活動は町で店を襲撃して食料を奪うくらいだが。
まあ仕方がない、生きる事を優先しなければ反政府運動をする以前の問題だから。
「神」は理想国家を造ろうとしているのはわかるが、この問題を完全に使徒に丸投げしている辺りどうかと思う。
ラックルはしょっちゅうその話を同僚にしては不満を漏らすのだが、同僚はそれに対して自嘲するような笑みを浮かべて答えた。
神なんていないよ、と。
元天使族だったらしい、その同僚が言うと、異様な説得力があったのを覚えている。

「…じゃ、料理が冷めるといけないから、この辺で」

少し居座りすぎた。このままだとサイレスと自分の昼食が冷めてしまう。
ラックルは食事の乗ったトレイを2つ持って食堂を出ようとした。
しかし、ぐいっと服の裾を引っ張られてラックルは立ち止まる。
見れば、ケアがカウンターから身を乗り出して服を掴んでいた。
そんなケアは、真剣な眼差しでラックルを見詰めていた。

「お仕事頑張って下さいね。俺も、早くラックルさんみたいな「人間」になりたいっすから、これから頑張ってサポートしてあげますからね。期待していいっすよ」
「…うん、そうだな。ありがとう、ケア」
「いえ、引き留めてすんませんでした」

またいつものように、快活さが溢れ出る笑顔に戻るケア。
ラックルはケアに一礼して、人の多い食堂を抜け出た。
食堂から数歩離れた場所まで歩き、ふぅと溜息をつく。
人混みに苦しくなった訳ではない。ケアの言葉が、重くのしかかってきたからだった。
すまない、ケア。俺はお前が望んでいるような「人間」じゃないんだ。
まるで詐欺師になった気分だと、ラックルは思う。

「なぁーに突っ立ってンだよ、立ちながら寝てんのか?」

そんな、剽軽な声と共にラックルは頭を叩かれた。
思わずバランスを崩して両手の料理を落としそうになるが、何とか踏みとどまる。
ラックルは荷物を落とさないように、しかし素早く振り返って襲撃犯を睨んだ。

「何すんだよ、ラザン!」
「うちのチビすけ君が立ったまま寝てるみてーだから起こしたんだよ、感謝してもらいたいねェ」

ラザン・ホルガーソン。ラックルの同僚にして相棒でもある堕天使族の男。例の、神なんていない発言の元だ。
元は金髪碧眼で純白の翼を持つ天使族だったが、罪を犯して地上に堕とされたそうだ。そのような天使は堕天使と呼ばれるらしい。
その証に、ラザンの髪は黒紫、瞳は金色、翼は漆黒に染まっていた。
ラザンはいつものようににやにや笑いを浮かべてラックルを見下ろしていた。
しかしいつもと違うのは、ラザンの左頬が赤い手形に腫れている所だろうか。
また沢山女作った事がバレて平手打ちを食らったのだろうとラックルは呆れた。
元天使とは思えないほどこの男は女にだらしがない。
きっと天使族の時に犯した罪っていうのは女絡みなんだろうなと、今の所ラックルはそう推測している。
気が付けば色んな女に手を着けていて、七股以上していると聞いた時には流石のラックルも武器を持ち出して制裁を加えたこともあった。
しかし、女を捨てるような事はしないし、避けられるはずの平手打ちを避けようともしないのはラザンの優しい所だ。
そこだけはラックルもラザンを評価していた。
しかしラックルはこの男が嫌いだった。

「だから、チビって言うな!」

ラックルが足で思い切りラザンの脛を狙うがラザンはふわりと宙を待って避けた。
翼は開いていない。天使族の翼は高速飛行でしか使わず、大抵は魔力を使って飛ぶのだ。
ラックルが綺麗な舌打ちをする。
嫌いな理由、それはとても簡単かつ明白な事実。小さいとからかわれるからだった。

「そう怒ンなって、更に縮むぞー?」
「今すぐ降りろ、そのツラ今すぐ潰してやる」
「ヤダね、そんな事されたら世界中の女の子が俺のために泣いちまうぜ」

両手の料理を落とすこともなくラックルは鋭い蹴りをラザンの顔に放つ、が、ラザンはふよふよと浮いては軽くそれをあしらった。
今度はトレイを宙に飛ばし、跳び蹴りを食らわせる。また避ける。着地した先で飛んだトレイをキャッチ。どこも零れていない。
滅多にお目にかかれないような格闘術ではあったが、周囲の人間…否、魔道人形はまたいつもの喧嘩かと無視するか微笑ましく眺めているかのどちらかだった。
どうやらこれはいつもの事らしい。

「なぁラックル、そろそろサイレスの所行かないと料理冷めるんじゃないか?」
「あ、そうだった」

ラザンが止まり、眼前でラックルの蹴りが止まる。
その表情に先程の怒りはない。
本当はそう怒っている訳ではないのだ、いつもからかわれているから。つまり慣れだ。
いわゆる条件反射のようなものである。
ラックルは足を下ろし、料理が零れていないか確認して、何事も無かったかのように歩き出す。ラザンも後に続く。
大きな扉の前に立ち、上を向いた矢印のボタンを押した。
すると扉が左右に開き、小さな狭い部屋が姿を表し、ラックルとラザンは中へ入る。
ラックルは片方のトレイを頭に乗せ、沢山あるボタンのうち一番大きい数字を押した。扉が自動的に閉まる。
がこん、と音がして部屋全体が動いた。

「いつ乗っても不思議だよなーコレ、どうやって上がってるんだろ」
「さぁ?知った所で俺らにゃ関係ないだろ」

確か神国の科学者は「エレベーター」だと言っていた。鉱山にあるリフトの質が格段に良くなったものと考えていいらしい。
科学って便利だ、とつくづくラックルは思う。科学者に言わせれば正確には魔法科学と言うそうだが。
外国で言う魔道具の改良版なんだそうだ。
イマイチ魔道具と魔法科学の違いなぞわからないが、どちらにせよ人の為に科学を使うのはいいことだと思う。
階段だったらきっと恐ろしい段数になっていただろうから。
しみじみそう思うラックルだった。

がこん、と再びエレベーターが揺れる。
最上階に着くには早すぎる。ラックルが階数を確認すると、6と書かれた数字の所でライトが瞬いていた。
扉が静かに開いて、二人の軍人が鉄箱を抱えて入ってきた。

「お、「白羊」さんに「天秤」さんじゃないか。元気してたか?」
「お久しぶりです」

片や、髭面でサングラスをかけた片腕の巨漢。
片や、両足に軍用の大型拳銃を差した眼鏡の女性。
オールバックで褐色の髪をしていて、黄玉色の瞳の目を細めて笑うその男の名はサライ・トロイクールという。
冷ややかな藍玉色の瞳を閉じて一礼し、紅茶色の髪をさらさらと肩から落とす女性の名はフォルト・ラン・シエルという。
前者の軍における階級は王佐、後者は元佐である。
もちろん、双方とも魔道人形だった。
実行部隊であるラックルとラザンは軍部によく関わりがある。そのため、お互い面識はあった。
右腕の不自由な上官に代わり、フォルトが32のボタンを押して、扉が閉まる。

「フォルトちゃん久しぶりー。相変わらず美人だねェ、後で俺と食事行かない?」
「お気持ちは嬉しいのですが、今は勤務中ですので」
「前もそう言ってたじゃん、その前も、そのまた前も」
「ええ、行くつもりはありませんので」
「ええー」

ラザンがフォルトを口説くが、彼女は凛として誘いを断る。
お堅いねぇ、とラザンは残念そうに引き下がった。
お前は美人と見ると魔道人形も口説くのか、とラックルは言い掛けたが、よくよく考えてみればこの国は人形の国だった。彼がいつも引き連れている女も魔道人形のはずである。
まあ魔道人形は人形とはいえ、人間と中身はそう変わらない。
内臓は人工臓器を使っているし、人間と同じ成分で作られた皮膚や肉で作られている。
違うのは子を産めない事と体内を巡る血液が魔力凝縮液だというくらいだ。
本当は人間となんら変わらないのだ、魔道人形は。
だからラザンは魔道人形も人間も変わりなく接する。厳密に言えば美人か女か美人じゃないか男であるかで対応は変わる。

そういえば昔、ラックルは人形の女と遊んで楽しいかと皮肉った事がある。
それに対するラザンの答えは、「まぁ、機能は同じだし」と言っていた。
最低だ。

「しっかし俺のフォルトを口説くとは流石十二使徒。だがフォルトは俺の物だッ」
「勝手に物扱いしないでください」

サライの発言にフォルトが突っ込み足を踏みつける。
上官の足を踏みつけていいものなのか、お互い慣れているようだからいいけれど。
サライが普段フォルトに迫っているのは前々から知っていた。
ぎゃあと叫ぶサライを眺めながらラックルは思う。

「ちぇ、今日は彼女に振られるしフォルトちゃんはつれないし…女運が悪いのかなァ」
「また二股がバレたんだろ」
「ちげーよ、ナンパしてるとこ見られたんだよ…ちなみに今五股な」
「ばかやろう」

ラックルはラザンを蹴るが、またもやふわりと避けられてしまう。
もうラザンに深く突っ込むまいとラックルは心に誓った。
フォルトも呆れたような顔をしていたが、話題を変える為にラックルに話しかけた。

「「白羊」殿はこれから「双魚」様の所へ?」
「うん、ちょっと遅くなったけど、昼飯を運びに」

白羊とは、十二使徒の証である称号の一つで、ラックルの事だ。
十二使徒の称号は十三あり、それぞれ黄道十三宮の名を冠している。
ちなみにラザンは天秤、双魚はサイレスの事である。

「そーいや、サイレスってどんな奴なんだよ?噂では渋いおっさんらしいけどさ」
「そうなのか?俺は絶世の美女って聞いたぜ」
「私は老人と聞きましたが…」

サイレスの実態は一部を除き、誰も知らない。
一般には強力な魔獣を操る召喚師であり、人間との関わりを疎んで「水瓶」エゲリヤの作った結界に住み、そこから魔獣を操って使徒の職務をしているとだけ言われている。
男か女か、老人か子供か、そもそも強力な魔獣を何体も使役している時点で人間の域を越えている、とも噂されている。
しかしサイレスに関する情報は本人の希望で流出しないでもらいたいと言われている。
サイレス自身、噂されることを案外楽しんでいるのかもしれないなとラックルは思った。
と、その瞬間、頭が急に重くなり、ラックルは叫ぶ。

「何だ!?…いて、いてててっ」

黒い羽が舞っているのが見えた。ラザンのとは違う、赤みのある黒だ。
ということは、恐らく頭にはサイレスの魔獣である烏がいるのだろう。
赤黒い羽の烏の名は、確か。

「地周、痛い!頭に爪を立てるな!」
「この馬鹿犬め、遅いぞ!いつまで主を待たせる気だ!」
「わかった、今向かってるから、痛いから離れろ!」

地周…烏は重く低い男の声でラックルを罵る。
ラックルは頭を振って地周を追い払うが、地周はまた舞い戻って今度は右肩に乗った。爪が痛い。
すると今度は左肩が重くなった。見れば青みがかった烏が乗っている。
こちらは爪を立ててこない。

「天英、もしかしてサイレスが怒ってるのか?」
「ううん、サイレスが「ラックルさん、遅いですね」って呟いたら地周が暴走してきただけ。しかもわざわざ移動魔法まで使って来てさ」

少年の声で、青黒い烏…天英がぼやく。
地周は「主の需要に応えるのも配下の仕事だ!」と右肩から天英に反論した。
左肩から天英が「サイレスはしてほしいなんて一度も言ってなかったじゃないか」と突っ込む。
耳の傍で騒がないでほしい。両腕のふさがっているラックルは耳を押さえることもできずうんざりした顔になった。
両肩の烏にしばらく唖然としていたサライが訊く。

「白羊さんや、こいつらは?」
「む、貴様のような輩に主から頂いた名を言うと思っているのか。名を名乗れ、名を!」
「ごめんねおじさん、地周って短気なんだ。僕は天英、サイレスの魔獣だよ」
「こら天英、見ず知らずの者に名を教えるでない」
「ラックルの知り合いだから平気だよ」

ラックルの肩と頭の間をちょこまかと動き回るカラス達。
普段サイレスの代わりに会議に出席するので十二使徒にとっては馴染みのある二羽だが、軍人の二人は知らないらしい。

「すみません地周殿、私はフォルト、彼は私の上官のサライ殿です」
「うむ、礼儀がなっておるな。しかし…あのような上官を持ってさぞかし苦労しているだろう」
「ええ、本当に」
「おいフォルト、否定しろよ」
「残念ながら嘘をつけない性格に「設定」されていますので」
「お前な!」

やいやいと騒ぐ内に、エレベーターが32階に辿り着き、扉が開く。
フォルトは一礼し、サライはにやりと笑い、ラザンはふわりと浮いてエレベーターを出た。

「あれ?ラザン、ここで降りるのか?」
「あー、上行っても暇だし、シヴェースんトコ行ってくる」
「またいかがわしい本とか借りてくるんじゃないだろうな」
「あ、なんでわかったの?」

やっぱりか、と思いラックルは口を開くが、扉が閉まっていく。
じゃーなー、とにこやかに笑うラザンの顔が扉の向こうに消え、ラックルは二羽の魔獣と共に残された。
最上階まで、これまでの3倍以上の時間がかかる。それ程までに「塔」は高いのだ。
それまでこの魔獣達と一緒なのか、とラックルはうんざりした。
いつも地周からは散々悪態をつかれ、なじられるからである。サイレスが大切なのはわかるが、文句の嵐を受けるのはまっぴらごめんだ。
しかし、地周は全く話さなかった。天英も然り、だ。
ラックルは不思議に思ったが、怒鳴られるよりはましだと思って何も言わなかった。
40階。
50階。
53階を過ぎた辺りで、地周が嘴を開いた。

「ラックルよ、お主に聞きたい事があるのだが」

来た、とラックルは思った。
またいつものように叱られるのかと覚悟した。
だが、しかし。


「お主…何者だ?」


え、とラックルは地周を向く。
真っ赤な目がじっとこちらを見詰めていた。

「…俺は、ラックルだけど、それがどうしたんだ?」
「とぼけるな。お主、ただの人間ではないだろう。ずっと前から気付いていたが、主の手前言い出すこともできなくてな」
「気付いてるのは僕らだけだ。そろそろ、教えてもらおうと思って」

動悸が早くなる。
バレた。
流石は地周と天英。この程度のことはお見通しか。
こう見えて地周と天英は人型もとれる大魔獣である。
その能力は空間移動術と同族同士の通信能力。
これまでの名のある魔術師…あのエゲリヤをも凌ぐ移動能力を持つ。
いや、そんなことは大した問題ではないのだ。
問題は、天英も地周もラックルの正体を嗅ぎ取れる程の感知能力を持つことである。
60階を越えてから、ラックルは口を開いた。

「…人間だ。俺は、人間だ」
「嘘つかないで、他のみんなは誤魔化せても、僕らは誤魔化せないよ」
「我々はお主の正体が知りたいだけだ…だから、主人のいないこの時に来た」

ラックルの頬を、冷や汗が流れる。
70階。

「我々も、主人に告げる気はない」
「ただ、教えて欲しいんだ。君がサイレスといて安全な「もの」なのか。僕達はサイレスの配下だ、安全を確かめないと。それが召喚獣の役目なんだ」

80階。

「教えて欲しい」
「お主を、疑わない為にも」

90階。


「煩い」


ラックルはようやく口を開いた。
静かに、ただ前を向いて、二羽のどちらにも目を向けずに、話す。

「そんなに知りたいか?俺がどんな怪物かって?教えてやるよ」

内側の、本性が牙をむいた。
獰猛な獣気が漂うのがわかる。
普段押し殺していた中身が不安と共に爆発した。


「俺は、人間も魔獣も同族の怪物さえも「喰う」…化け物なんだよ!」


言い切ると同時に、二羽はラックルの肩からかき消えた。
危険な「もの」と認識したのだろう、そしてそれを主であるサイレスに報告しに行くのだろう。

自分の胸から、何かが零れ落ちて、穴が空いたような気分になった。
がしゃん、と両手のトレイが重力に従って床に落ちる。
所詮化け物は人間とは相容れないのだと、思った。
魔獣にも受け入れられないのだとも、思った。
沈黙したまま、エレベーターは昇ってゆく。





不意に、ぼすんと頭に何か重たい物が置かれた。
何かと思ったら、目の前には見上げるだけで首が痛くなりそうな巨漢がいた。
どうやら、最上階に着いてしまったらしい。
サライ程ではないが、それでもラックルよりも二つ頭分以上はある。
髪は焦げ茶で、同色の瞳が鎮座する鋭い目でこちらを見下ろしていた。
服装は茶と緑を基調とする遊牧民族の衣装だった。
顔つきは、ラザンと張れるくらい整っている。ただし、軟派と硬派とで違う印象を与えるのだが。

「アザル…」
「どうかしたのか、ラックル」

アザル・ラグランタ。十二使徒の一人、「獅子」だ。
寡黙で己に厳しくて強さを追い求めるが、一方で自然を好む優しい性格の彼はラックルの憧れだった。
腰に二本の刀を差しており、それが極東の島「ミカガミ」にいる「サムライ」のようで、ラックルは普段彼を慕っていた。
彼はラックルの頭に右手を置き、ぽすぽすと宥めるように軽く叩いている。
最上階からエレベーターに乗るつもりだったらしい。それでラックルと鉢合わせた訳だ。
尊敬する相手に、ラックルは不機嫌そうに頭を振って手を振り払った。

「やめろっ!」

アザルが目を見開いて驚いていた。
困ったような顔で、何か気に障るような事をしたかなと言ってる風だった。
ラックルはそんなアザルを見て、自分が何をしたのか理解し、顔を紅潮させた。
八つ当たりをしてしまった。あのアザルに、何も知らない彼に。
ラックルは後悔と羞恥から走り出し、アザルを突き飛ばし、そのまま最上階の廊下を走り抜けた。

「ラックル!」

アザルが背後から呼んでいるが、ラックルは振り返らずに走った。
ただひたすらに、がむしゃらに駆け抜ける。
そうした後に、廊下が終わって行き止まりになった。

その壁には、これまでの十二使徒の名が刻まれた墓碑があった。
この先にはサイレスと、その配下の魔獣がいる。
壁の向こう、そこにはエゲリヤの魔術で作った空間が書庫の形をとって存在している。
サイレスは人との関わり合いを避けて、何年も前からここで召喚獣と生活していた。
ここに入れるのは、「化け物」だったために元々この空間に閉じ込められていたラックルと、その世話役だったラザンと、エゲリヤだけだ。
エゲリヤは多忙な為、ラザンは辞退した為、現在は消去法でラックルがサイレスの世話役となっている。
そういうわけでラックルは、人と関わろうとしないサイレスと、誰よりも仲がよかった。

しかしラックルはサイレスに会いたくなかった。
きっと、俺の正体を知ったあいつに拒絶されるだろうから。
それだけは見たくなかった。

後悔と羞恥と怒りと悲しみと、内側の狂気が入り混じった感情で混乱していた。
膝を付き、墓碑に寄りかかり、うなだれる。



そうして、やがて、廊下に少年の嗚咽が響きだした。










白 羊 、 揺 々 ト 思 フ 。





***
あとがき。
つかれた。
もうやだ。
携帯嫌い。
携帯面倒くさい。
でも携帯で書くしかない。
うああああ。
ラックルがシオンばりにネガティブになった…ちくしょう。
私自身がネガティブなのでネガティブキャラって動かしやすいのよね。
嬉しくないorz
08/07/20




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