スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
【--/--/-- --:-- 】 | スポンサー広告 | page top↑
第十二章・青空スマイリー
早死にしてしまうのと。

永遠に生きてしまうのと。

半永久的に生きるのと。

どれが一番素敵だと思う?


不思議な色彩を身に宿した妖艶な魔女は、そう、俺に訊いた。



***



「シオン」


レスは彼の名を呼ぶ。


「あんたの選択肢は、二つしかなかったのかい?」


一つ、己が皇帝を死に追い遣る≪疫病神≫だと理解した上で国を建て直し、≪守護神≫として国の悲惨な歴史を繰り返すか。

一つ、己が皇帝を死に追い遣る≪疫病神≫だと認識した上で国を他人に任せ、死を以って≪守護神≫として皇帝殺しの責を負うか。


今までの皇帝は揃って悲惨な死を遂げてきた。それを、シオンは自分の責と薄々承知している。

余りにも沢山の皇帝が同じような死を遂げ、帝国の皇帝の死は「当たり前」だと、何時の間にか国の中でもシオンの中でも定着し、彼は己の責を忘れかけていた。

だからシオンは今まで、己の責とわかっていながら、その現実から目を背けていたのだ。

自分は直接彼らを殺した訳ではない、その死は自分とは関係無いはずだ、まだ認められない、理由がない。


だが今回は違う。

シオンが守護神だったから帝国は彼を狙う神国に襲われ。

シオンが守護神だったから帝都の魔術師は魔力を抽出する為に攫われ。

シオンが守護神だったから皇帝は魔力を奪われ死に至るだろう。

全てはシオンが帝国の者だから、という理由で。

いや、それだけならまだ立ち直れる術はあったのかもしれない。


今回は「二回目」なのだ。

初代皇帝、ミオ・ヴァイ・ラグスタ。

そしてその生まれ変わりと称される、117代皇帝、ミーア・ディロイ・ヴァムストル。


同じ魂を持つ人間を、二度、己のせいで殺してしまったのだ。


どうしたら皇帝を死なせずに済んだか?

シオンが≪守護神≫でなければ皇帝は二度死ななかったのか?

シオンが≪疫病神≫でなければ彼らは死なずに済んだのだろうか?

シオンがもっと早く認めていれば二度も死なずに済んだのか?


嗚呼、答えなど最初からあったはずだ。


シオンが帝国に関わっていなければ、皇帝は全員死なずに済んだのだ。




『シオンさんは完全に打ちのめされてます。このままじゃ自殺しかねないですよ』




レスの脳裏に、飄々とした顔でさらりとそんな事を言ったデンの顔が浮かぶ。

あの時、デンはこっそりとレスに耳打ちして、シオンの今後の行動の予想を述べたのだ。

嗚呼、あんたの言う事は間違ってなかったよ、いけすかない騎士め、とレスは脳裏に浮かんだ騎士の顔を引き裂いた。


「今死ななくったっていいだろう、あんたを頼りにしてる奴らもいるんだ、国を立て直すくらいしてからでもいいんじゃないか?」

「それが自殺を止める台詞か、俺の性格知ってるだろ」

「ああ、無駄に意地張る馬鹿だったな」


手にしたナイフはまだ腹に向けて刃を煌めかせている。

シオンがあと数センチ、腕を自分に向けて動かせば、ナイフは易々とシオンの腹を裂くだろう。

ここは小さいとはいえ、病院ではあるから一命は取り留められるかもしれないが、シオンに生きる意志があるかどうかが問題だ。


「どうしても死ななきゃいけないのかい?」

「117人の皇帝と女帝、…その他にも大勢の命を、俺は奪ってきたんだ。俺が死んだだけでじゃ拭い切れないほど罪を犯してきた」

「疫病神云々の話はもういい、飽きた」

「誰から聞いた?」

「さあ、アロドかな?デンかな?ナイフ放り出して聞きに行けばいいじゃないか」


レスにしては妙に挑発染みた口調に、シオンはむっとする。

諦め顔で慣れた手付きでナイフをくるくると回し、それを横の棚に突き刺した。


「…わかった、降参だ。大人しく復興事業に勤しみますよ」

「あんたにしちゃ聞き分けがいいな」

「自分自身馬鹿な事をしてるとは思っていた。こんな事、ミオは望んじゃいない」


連れ去られた皇帝は「国を護れ」と言った。ならば死ぬのは命令に背く事となる。

ジレンマに潰されそうになり、どちらかを選ぶしかないその状況で、命令に背きかけた。

そこまで焼きが回ったか、とシオンはこめかみを指の腹で抑え、溜息をつく。

それに、


「…出てこいよ、いるんだろ?」


その言葉はレスに向けたものではない。

レスが入ってきた扉の向こう、その後ろに、彼女はいる。

レスが来た時点で気配はわかっていた。

あの魔力の波長を忘れるものか、禍々しい、それなのにどこか優雅さを思い起こさせる、そんな気配。





「やあねぇ、そんな言い方はないじゃない。慰めに来てあげたんだから、ねぇ?」





その髪は甘美な蜂蜜色、その瞳は妖艶な孔雀色。

しゃらり、しゃらりと全身に纏ったアクセサリを鳴らし、妖艶な美女は扉をくぐる。

彼女の名はシュティーナ・エルサ・マリア。昔からの知己である。


相変わらずけばけばしい女だ、とシオンはもう一度こめかみを押さえた。


「何でこんな所にいるんだよ、シャートの所に行っていたんじゃなかったのか?」

「マーロザに行くとは言っていたけれど、あんな引き篭もりに会うわけないじゃない。こっちからお断りよ」

「魔具オタクの次は引き篭もり呼ばわりか、シャートが可哀想だ」

「いいのよ別に、いっそ魔道具と結婚してしまえばいいわ」


できるか、と思わず心の底で思ったが、反論すると色々怖い女だ。

こう見えて拳で言い聞かせるタイプだから怖い。

昔よくハイヒール履いた足で蹴られたり指輪のついた拳で殴られたりした覚えがある。貴金属は凶器だ。

身に染みてわかっているから、一応黙っておいた。


「それに30年前の話じゃない。長生きしてるって言っても一つ所に収まる気なんてないわ」

「そーかい。で、何だって帝国に来ていたんだ?俺に会う為じゃないだろ」

「あたしが移動劇団の団長してるのは知っているでしょ?偶然こっちに来てたら劇団員が変な女に攫われちゃったのよ」

「変な女?」

「そ。銀灰色の髪してて鎌を持った女。急に帝都が襲われたかと思ったら、そいつが攫ってっちゃったのよ」


それはひょっとして神国幹部のゾナ・ルヴェールの事だろうか。

よく女とわかったもんだ、と思ったがこの魔女の事だ、それくらい簡単にわかるだろう。


「その劇団員とやらは戻って来たのか?」

「何言ってんのよ、あんたが助けてくれたって聞いたからここに来たのよ」

「俺が?」

「ああ、あんただけじゃなかったわね。そのお仲間さんも。先に挨拶はしておいたわ」


ねぇ、みなさん?



シュティーナの背後には、先刻部屋を出て行き、仕事をしているはずの面々が立っていた。



***



「…なぁ、これは新手の罰ゲームか?」


自暴自棄になっている所をレスに見られたし。

この世で一番苦手なシュティーナには会うし。

ああそれに、きっとレスが来た辺りから他の面々は一連の出来事を聞いていたのだろうし。

きっと今日は厄日だ。きっと昨日も厄日だったんだ。厄日なだけに厄介な奴らばっかりだ。うまいことも言えてない。


「そうですねぇ、俺達に何も話さず、おまけに仕事だけ押し付けて逃げようとしたシオンさんへの罰ゲームです」


にやにやと笑ったデンが憎らしい。殴るぞコノヤロウ。


「レスをけしかけたのはお前だな?」

「ははは、バレちゃいましたか。ちなみに全員ここにいるのも、俺の仕業です」


もっとも、彼女はイレギュラーでしたが、とデンはシュティーナに微笑んで見せた。

一体どこで鎧を脱いだのか、私服姿のデンはつかつかとシオンの前まで歩き出す。

十年前はこんな薄笑いを浮かべるような男ではなかったのに、とぼんやり考える。

あの頃はまだ、デンもアロドも幼さが抜けない子供だったのに、何時の間にか大人になってしまった。

自分はまだ、子供のままなのに。


「貴方の事だから、きっと全ての責任を負って自殺でもしかねないと思ってましたから」

「お前が俺の事を言えるか」

「まぁ、俺も昔しかけたことだから言えませんけどね。でもこれ、アロドさんが言ったんですよ?」


アロドが?

背の高いフォクスの後ろに隠れるようにしていたアロドが、その言葉に、おずおずと出てきた。


「…私は、父上と血は繋がっていませんが…それでも、あの頃は貴方を一番間近に見ていました」

「……」

「貴方は優しすぎる。だから長い間、目の前で代々の陛下が亡くなられても、一番辛い守護神の地位を捨てる事はなかった…」

「…」

「捨てるとしたら、きっと、全ての責を背負って自身もろとも消し去るつもりだと思ったんです…」

「……」

「貴方は、誰よりも優しくて、誰よりもこの国を想っている人だから」


何も言えなかった。

いつの間にこんな事を言うくらい成長したんだろう、とか、怒ってるんだな、とか、色々思う事はあったけれど。

何より、俺の言葉を奪ったのは、その涙だった。

昔からあんなに気丈で人前では絶対泣かなかった子が、自分の目の前で泣いている。

何だか申し訳ない気持ちになって、何も言えなかった。

本当に、アロドやデンは大人になって、俺はまだ子供なんだなだと、思い知った。


「父上、少し、いいですか」

「え?」


ボゴッ。


急に右頬にとんでもない衝撃がきた。

予想外の行動に反応できるわけもなく、右ストレートという物理攻撃をまともに食らった俺はしばらく脳震盪と戦う羽目になった。

痛い。まともな人間なら歯の一本二本折れたに違いない。

ていうか、女の子なら普通平手だろ、拳で殴るなよ。しかも中指を僅かに上げるなんて高等テクどこで覚えたんだアロド。

デンがぱちぱちと拍手しているのが聞こえた。よし決めた、後で殴ろう。

まだぐわんぐわんと揺れ続けている頭を両手で抱え込んで俺はアロドに言った。


「………痛い」

「シュティーナさんが、一発殴っとけって。こう殴れと教えて貰ったんですが…」


お前か、道理であんな綺麗な右ストレートが出るわけだ。

シュティーナを睨み付けたら、彼女はそ知らぬ顔で明後日の方角を見ていた。


「でも、私、謝りませんから。一人で全て抱え込んで、誰にも話さないで、しかも…自殺なんて。父上だって悪いんですから」

「は、はあ…」

「私に相談くらいしてもいいじゃないですか、私は貴方の娘ですよ。父上なんて殴られて当たり前です」

「そこまで言うか…」

「あと、ここにいる皆さんに謝るべきです。こんなに迷惑かけたんですから」

「いや、ちょっとそれは…」

「父上」


何とか言い訳をしようとしたら、アロドがぼそりと呟いた。

やたら凄みのある声。

どこかで聞いたことのあるような、根強い恐怖心を呼び覚ます、そんな声。

ついでに暑くもないのに全身から汗が噴き出る。いわゆる冷や汗とかいうやつだ。

おかしいな、見覚えがあるぞこのシチュエーション。

ああ、あれだ。昔母親に怒られた時とかシュティーナの怒りを買ったときの。

懐かしいなぁ、あの時は散々叱られたっけ…なんて言ってる場合じゃない。


「ごめんなさい」

「…しばらく反省してくださいね」


どこでこんな精神的にくる凄みを身に付けたんだか。

どうしよう、ともう一度レスに目で訴えるが、むりむり、と顔の前で手を振られた。使えない奴め。

そんな事をしていると、デンがパンパンと手を叩いて注目を集める。


「はいはい、アロドさんの反抗期が始まったのはいいとして」

「いいのか」

「いいんです。で、そろそろ教えてくれませんかね、シオンさん」


指を銃の形に模して、シオンを指差すデン。

人を指差しちゃいけませんと教わらなかったのか。お前いいとこのぼっちゃんだったろうが。


「何をだ?」

「とぼけないでくださいよ、わかっているんでしょう?」


にっこりと笑うデン。

怒った顔のアロド。

無関心なシュティーナ。

腕を組んで事の成り行きを楽しんでいるレス。

黙ってはいるが興味津々なプリム。

巻き込まれておろおろしているフォクス。





「ひとつ、シオンさんの出生」

「ふたつ、神国との関係」

「みっつ、シュティーナさんとの関係」

「よっつ、これからの貴方の行動。もちろん自殺は認めませんよー?」




ばーんと言い、シオンに向かって銃を撃つ真似をした。








「さあ、洗いざらい喋ってもらいましょうか。シオン・ハーティリー様?」




逃げ道なんて、どこにもなかった。










青 空 ス マ イ リ ー 。





+++

第十二話。

本当は八月にいっぱい更新しようと思ったら意外とできなかった件。
ネタが積もり積もってきたのでこれから(多分)たくさん更新できるといいなと思ってます。
帝国編はあと二話くらいで終わります。
途中ギャグになったのは最近うじうじしすぎたからです。
ちょっと明るい話にしたかったのです。
アロドさんはきっと武術のセンスがいいと思う。シュティーナさんはいい先生。
あとフォクスさんとプリムちゃんが空気なのはごめんなさい。いらない子じゃないです。
きっとこれから活躍する、はず!
あとデン様でしゃばりすぎ。お前黙れYO!
スマイリーはなんとなく。シュティーナさんとデンの事じゃないかなぁと(自分が書いたのに)

07/08/24




スポンサーサイト
【2007/08/24 22:00 】 | 未分類 | コメント(2) | トラックバック(0) | page top↑
| ホーム |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。