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第九と二分の一章・ネイムレス・トーク
病院というのはどうにも清潔感がありすぎて軽い嫌悪を覚える。

そもそも俺は病院というのが苦手だった。あの薬品の臭いとか真っ白な建物とかあと注射とかな、怖くないけど。

兎に角俺は病院の中が駄目で、避難場所を捜し求めた挙句に病院の屋上に辿り着いた。

病院といっても城下町で数少ない、戦火を免れた小さな診察所だから屋上も当然狭い。

けれど愛用の煙管を吹かす為なら狭くったって平気だ。

あー煙が肺に染みる。


「病院内は煙草厳禁」

「うるさいな真面目女、お前はどこぞのクラス委員長だ」

「常識ですよ、不良男子生徒にしては身長も年齢も高すぎるレスさん」

「レスでいい、むず痒くなる」


階下から上がってきたのはシオンが愛してやまない義娘のアロドだった。

畜生、俺の安らぎのひとときを返しやがれ。今日一日疲れてんだ、なんで徹夜して戦ってたんだ俺ばっかみてぇ。

アロドはそんな俺の心情を知ってか知らずしてか、わかりました、と返事をした。


「で、何の用だ」

「父上の傍にいるとどうしても色々考えてしまいまして、気分転換にちょっと」


現在シオンはもろもろの事情の末、この診療所のベッドにご厄介になってすやすやと眠っている。

つまり俺達はほぼシオンのせいでここにいるわけである。

なんてこったい、俺なんか戦闘の興奮が残ってて寝付けないんだぜ。どうしてくれるんだよ明日。

煙管をぷかぷかとふかしながら戦場だった城下町の景色を見れば、空はうっすらと白んでいた。

ああ、グッバイ俺の睡眠時間。


「…………」

「…………」


それにしても、空気が重い。

思えばアロドとはつい数時間前に出会ったばかりである。話す話題も見つからない。

この場合話を切り出してやるべきか、それとも放っておくべきか。

いやいやそれとも…って何やってんだ俺は。


「あの、」


とかなんとか悩んでいるうちに、アロドの方から話を持ちかけてきた。


「父上の事を、聞きたいのですけども」

「はあ?」


我ながら間抜けな声が出たと思う。

何言ってんだこいつ、俺よりもシオンとは長いはずだろうが。

いや、もしかして旅に出ていた間の事を言っているのか?思い当たる節といえばそれしかない。


「旅の間の?」

「ええ、何か変わったことしてそうで」

「あんまし変わらないぞ、相変わらず猪突猛進で世界中駆け回ってた」

「……らしいですね」


思うところあったらしい、アロドが目を逸らした。

あいつはここでも暴走していたのか、よく二千年も持ったなこの国。

しかしこのままでは話は潰える。俺は必死でシオンに関する話を考えていた。

あ、でもそういや。


「あいつってさ、泣けるんだよな」

「泣く…ですか?」

「あいつが泣く所、初めて見た。ついさっき」

「ついさっき?」


あー、そういえばアロドには玉座の間で何があったかを話していなかった気がする。

丁度いい、ここらで話しておくか、と俺は腰を下ろして煙を吐いた。


それはシオンがエゲリヤとの遣り取りに敗北した時の事。



***



まずい。

これは、非常に、まずすぎる状況だ。

いや、シオンの正体が明かされてどうとか、実は守護神でしたとかもうそんなのどうでもよくてとにかくやばい。

シオンの瞳には、もはや生気は見られなかった。金色の月の色には光の一片すら見えない。


「…離れろ!!」


俺の一言で、シオンとエゲリヤの静かな攻防戦を見守り、硬直していた仲間達が我に帰って後方に飛び退いた。

途端、シオンの足元に闇色の液体のようなものが、ごぼりと湧き上がる。

ごぼごぼ、ごぼ、シオンの足元だけでない、さっきまで俺達のいた場所にも液体は湧いていた。

違う、湧いているんじゃない、這い上がってきている。

液体は形を成して、人の腕をとり、その腕が地に触れる度に、固い石の床は溶ける。ぶっちゃけきもい。

塩酸?硫酸?とにかくあそこにいたら酸性の何かで溶かされていたのは間違いない。

シオンには最早、俺達は見えていない。その目は絶望の色しか見えなかった。


「シオンさん!」

「デン、こりゃ言っても無駄だぜ。闇魔法使い始めたシオンは手に負えねぇ」

「どういうことよ、レス」


あいつの使う魔法はその時の気分で属性が異なる。

さっきまでシオンが使っていた魔法は火炎魔法。周囲の戦火を利用して炎属性の魔法を使っていた。

しかし今の魔法は何だ、負の位置に属する闇魔法じゃないか。闇魔法は、シオンの心を映し出しているんだ。

昔一度だけシオンの闇魔法を見たことがある。

その時も、シオンは無表情で、敵を殲滅するまで、魔法を使用し続けた。


「……………………」


絶望の闇の中に囚われたシオンは、足元の腕を操り、結界を強烈な酸で溶かしていく。

異様な腐臭を立てて崩れる結界を越え、シオンと腕は一歩ずつ、ずるずると引き摺るように歩いた。

一歩、また一歩、闇色の腕を従えた少年はゆっくりとエゲリヤに近づく。お前はどこのアンデッドだ。

流石のエゲリヤも、この状態のシオンを相手にする気はないようだ。一歩ずつ引いて、詠唱を唱える。


「ごめんなさいね」


驚いたことにこの女は謝罪を述べた。

もちろん俺達じゃない、きっちりシオンの方を向いて話す。


「事実は伝えなくてはと思って。でも、聞いて」


もうシオンには何も聞こえないだろうこと、このアマめ知ってるくせに。

そんな思いも知ってか知らずしてか、完全に手を出せないで蚊帳の外状態の俺達に視線を向けて、微笑んだ。

あ、笑えるんだ。


「今誰もいないから言える、貴方はその魔力を「神」に渡してはいけない。渡せば、世界は崩壊する。全てが、規則から外れるのよ」


ちょっとまて。

ひょっとして、あんたは、味方なのか?


「いいえ、残念ながら違うわ。忠告を施しただけよ…この世界に生きる、少し知りすぎた存在として」


訳がわからない。


「貴方はわからなくていい。伝えればいい。あと、」


そう言ってエゲリヤはちらりとシオンに向き直る。


「この、幸を持ったせいで不幸になった子を、頼むわ」


そうして敵は訳のわからないことをくっちゃべり、瞬間移動魔法の詠唱が完成し、逃走した。

同時に、俺達の背後で待機していた魔道人形も消える。

しかしエゲリヤさんよ。そんなこと言われてもな、この精神的にアンデッド状態の守護神様をどうすればいいんだよ。

俺達は顔を見合わせて、エネミーが消失して呆然と立ち尽くすシオンをどう復帰させるかを考えた。

しかし流石は守護神様、俺達がなんとかする前に魔法は風化して消滅する。

ちゃんと現実世界に戻ってきてくれたろうか、それを確かめるために俺はシオンに駆け寄り、呼び掛けた。


「シオン」

「…レス」


相変わらず濃度の濃そうな絶望色をした瞳をこっちに向けて、シオンは答えてくれた。

大丈夫とまではいかないが、精神状態は幾分かましになったようだ。淡く光が差し始めた。

けれどまだ、心に溶けた絶望は濃度80%ってところだ。口を開いた瞬間にシオンは錯乱状態に陥っていた。


「ねえ、どうしよう、レス、どうしよう、おれ、もう」

「落ち着け、落ち着けったら」

「ミオはいなくなった、父さんはもう笑わない、俺は、また、また…!」

「シオン、皇帝さんはまだ生きているはずだ、落ち着け」

「なんで、なんでまた、みんな、いっちゃうんだよ、おれ、は、また、ひとりじゃ、ない、か…っ!!」


ぼろぼろと涙を零して泣きじゃくるシオンは、とてもじゃないが推定五千歳以上の長寿さんには見えなかった。

なんだ。

いつも偉そうにしてて、凄い強力な魔法使って、守護神と呼ばれていて。

そんなあんたでも、涙流せるんだな。

そんなあんたでも、一人が怖いとか思えるんだな。

そう思うと、何だか、シオンが俺達と同じただの人間のような気がしてきた。

同時に、少し腹立たしい思いも。


「ばーか」

「え…」

「じゃあここにいる俺はなんだ、デンは?プリムは?下で待ってるアロドはどうなるんだ」

「…」


目を皿のように丸くして、泣くのも忘れたシオンは、そりゃ間抜けな顔だった。

そのくらいの方が親近感あるぞ、うん。

俺はシオンの頭を軽くはたいて、頭を抱え込むようにして抱き締めた。




「俺がいる、それじゃ駄目か?」




間抜け面のシオンは、困惑したようになり、それからはにかむように笑って、眠ってしまったのだった。



***



「俺、勘違いしてたわ。シオンは何でもできて当たり前、取り乱すなんてないって思っていたからさ」

「はぁ…」

「確かに五千年も生きているのかもしれないけれど、本質は子供なんだって知ってさ」


誰かが傍にいなければ生きていけない。

けれど、半永久的に生きるだろう彼は、必ず友の死を受け入れなければならない。

それを子供の心のままで、何度も何度も、経験してきたのだ。

シオンは決して強くない。例えるならば高名な硝子職人が作り出した、硝子製の大剣である。

強いけれど脆い。誰かがいなくなった後で一人虚しく、涙を流すのだ。


「だから俺はまだもう少し、シオンに付き合うつもりだ。」


目が離せないからな、と笑ってみせる。

アロドはそれに対して、名前を呼ぶことで答えてくれた。


「…レス」

「ん?」

「確かに興味深い話でしたけれど、一ついいですか?」


ああ、どうぞどうぞ。

ぷかり、と煙管からまた煙が浮かぶ。

まるで小さな雲みたいだ。


「私、貴方に謝らないと」

「何を?」

「貴方に冷たくした事。正直に言うと…嫉妬、とでも言うのでしょうかね。父上を取られたみたいで悔しかったんです」


まあなんとなく気づいていたけどな。

しかしファザコンも大概にしろよ、その年にもなって。知ってんだぞ実は俺より年上って。


「それで、旅の合間の事を聞こうと?」

「そうですね。ええ、そうです。でも、父上が貴方に信頼を寄せている理由が、何となくわかった気がします」

「はぁ…」


信頼といわれてもいまいちこう、ピンとこないんだが。

だってあいつ傍若無人なんだぜ、俺の事無視して暴走したりするんだぜ。

そう言ったら、アロドはくすくすと笑ってこう言った。


「それが、あの人なりの信頼なんですよ」

「えー…もっとマシなのないのかよ」

「あの人に常識が通じると思います?」

「いいえ、ないですねぇ」


お互いに顔を見合わせて、にやりと笑いあう。

なんだ、結構いいやつなんだな、アロドって。見直した。


「父上を、よろしくお願いしますね」


あと、笑うと可愛いんだなとか口が裂けても言えない。


突然、強い風が吹くと同時に、視界に眩しい光が視力を奪った。

朝日が昇り始めた。もう夜が明けるのか。

それにしても前髪がばらけて太陽光が直接目に当たるんだが、痛いぞこれは。

アロドは若干日陰の方にいるから眼球への攻撃は回避されたようだ。

徐々に目が慣れて、それでも眩しい朝日は戦火に焼かれた後の町並みを綺麗に照らした。

綺麗な景色だ。何かの絵画にありそうな、綺麗な景色だ。

ふとアロドを見れば、明らかに太陽光のせいじゃない赤みが頬に差している。


「顔、赤いぞ?風邪でもひいたか?」

「いえ、そんな訳では…」


よくわからんが、まあいいだろう。



徹夜の末に見れた日の出は、この荒廃した城下町がいつか復活するのを暗示しているかのように、輝いていた。










ネ イ ム レ ス ・ ト ー ク





+++

番外編というか閑話その一。

夜中に何書いてるの私。もう五時じゃない。
リアルで朝日を見てちょっと感動。それで最後のシーン。
レスの前髪の下はかっちょいいんですよ、個人的設定ですが。
つかフラグ立った?何のとか言わない。
アロドさんいいよね。

とりあえず9~10話の間に何があったのかっていうのと、レス&アロドが書きたかっただけ。


・07/05/27
朝五時に誤字発見、修正。うまいこと言ったつもりだ。




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【2007/05/26 04:44 】 | 未分類 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
第九章・人ならざる、龍ならざる、半分の子供
「聞こえなかったのですか?捕虜になると言っているんです、人質を解放しなさい」


あくまでも威圧的に、そして高圧的に。最後の皇帝は言い放つ。

若き皇帝は歴代の王に負けず劣らず、寧ろそれ以上の威厳を持っていた。

元は地方貴族、片親が皇帝の親族ゆえ、そして守護神の御心によって皇帝の位に就いた。

曰く、不本意だと、面倒だと。

彼はこの国の最高権威を、そう、言ってのけた。

しかし、最高権威には興味はないが、貴方の愛する国を護る為なら、私が身代わりになろうとも、言った。


「ほう?」


男は心なしか笑っているようだった。にやりと、獲物を追い詰めた猛獣のように。

その腕が天から、地へと下りてゆく。


「こんだけ粘っといて、今更呑むとはな。何が狙いだ?」

「いいえ、別に。強いて言うなら…」


ミオはシオン達の方を向いて、微笑んだ。


「シオンが来るまで、この国は私が護らなければいけなかったのですから」


それは十年前にした約束。

シオンが旅に出る間、ミオが国を護り抜くと誓った契約。

成人したはずの姫が今もなお帝位に就けなかったのは、その契約のせいだ。

本来ならばシオンが戻ってきた時点でミオは帝位を降り、そして姫は女帝になるはずだった。

しかし、姫はいない。この国も大打撃を受けた。

そこへ更に皇帝がいなくなればどうなるか、帝国は崩壊するのだ。

つまり、ミオ以上の権力と纏め役がいなければ、彼はこの帝国を去ることは許されない。

それは、自分の意思。


「後は頼むよ、シオン」

「馬鹿野郎!俺はお前を犠牲にする為に護れって言った訳じゃない!!」

「契約期間は終わった、私は貴方の命令に従う必要もないのでね」


師であり、親友であるシオンの言葉にも耳を貸そうとしない。

彼は、本気でこの国の為に、そして目の前の少女の為に命を投げ出す気だ。


「やめてくれ、ミオ」

「やめません」

「頼むから、行かないでくれ」

「駄目です」

「頼む……お前までいなくなったら、俺は」


「お喋りは、そこまでだ」


いつの間にか人質を解放し、ミオに接近していた敵が呟く。

そして、ミオの腹へと、強烈な蹴りが綺麗に決まった。

ぐ、と鈍い声を上げて床に転がる皇帝。彼らを除いた全員が、息を呑む。

普段は余裕綽々の笑みを振り撒いて、強力な魔力を持つミオではあるが、彼も人間だ。痛覚はある。

激しく咳き込み、苦痛に眉根を寄せるミオを更に足蹴にして転がす男は、笑っているようだった。

胸を踏みつけ、肺を圧迫させて肋骨を軋ませる。加虐趣味でもあるのか。


「ぐっ、が、あ…ッ」

「はは、あんだけ俺をコケにしといてこのザマかい、皇帝さん」


このままでは肋骨が折れてしまう、とシオンは魔法の火炎を男に放つ。

が、しかし、火炎は男に届く前に四散してしまった。

魔法が解けたのではない、瞬間的に張られた結界だ。


「おう、ありがとよ、エゲリヤ」

「あまり傷つけないで。血を流せばその分魔力は減るわ」


暗闇から、一人の女性。

その声は、先ほど兵士を部屋から退かせたものと同じだった。

恐らくは、男の仲間。すなわち敵。


「こんばんは、シオン・ハーティリー」


長い黒髪、漆黒の瞳、神秘的な衣装、手にした水晶玉は魔力増幅の品か。

妖艶な微笑みを口元に湛えた黒い美女。

彼女は、シオンの正体を知っている。とすれば背後の男にも正体は明かされているだろう。

遂に居場所が割れたか、とシオンは歯噛みする。


「シオン様、気をつけて。アイツは強いよ」


シオンの背後で、元神国兵のプリムが忠告する。


「知っているのか?」

「神国じゃ知らない奴はいないわ。幹部の一人で、称号は「水瓶」。エゲリヤっていうの」

「魔法使いだな?」

「うん。それで、後ろのは「巨蟹」、ゾナ・ルヴェール。もちろん幹部よ」

「女だったのかよ」


ゾナというのは基本的に女の名前だ。

レスが驚き半分、呆れ半分でぼやいた。


「うるせぇよ、好きで女に生まれたかった訳じゃねぇ」


ミオの胸から足を下ろして、ゾナが忌々しげに呟いた。

そしてミオの胸倉を掴んで無理矢理立たせた。


「エゲリヤ、飛ばしてくれ」

「ええ。向こうで殺したりしては駄目よ」

「しねぇよ。ま、ぶっ殺してぇのは山々なんだけどな」


はっはっは、と豪快に笑うゾナ。女に見えないのも無理は無い。

呆れ顔で溜息をつき、エゲリヤは呪文を唱え始める。

それは、移動魔法の一種。それも高度な。


「させるか!!」


シオンが再び火炎を撃つが、またもや結界に阻まれる。

レスも結界に斬りかかるが、結界は硬く、破れそうにも無い。

その様子を、鈍痛に苦しむミオが横目で見ていた。


「シオン…私の事はいいから」

「馬鹿かお前は!一人で行くなんて許せない!!」

「シオン」


ゾナも、ミオも体が消えかかっている。

もうすぐ移動魔法の呪文が完成する。完成したら、彼らは移動先へ瞬間移動する。

そうしたら、どうなる。

魔力を残さず奪われて、皇帝は死ぬのだ。

それでも最後の皇帝は、力なく、しかしいつものように微笑んだ。


「私は、初代ではありませんから」



そして、龍の住まう家の王は、姿を消した。



***



「畜生」


がつん、と結界を殴る。

がつ、がつと何度も叩く。叩いて、拳が割れ、結界の壁に血が飛び散って垂れる。


「何だよ、最後に、そんなこと、畜生、卑怯だよ、馬鹿野郎」


その怒りは、ミオに向けられたもので。

自分は初代とは違う。暗に、初代と混同するなと、説教したのだ。

初代とは何のことか?

答えは簡単だ、初代皇帝、ミオ・ヴァイ・ラグスタ。建国者であり、そして最初の皇帝でもあった男。


「お嘆きの所悪いけれど、私がまだいるのよ」


結界の向こうで、高度な移動魔法を終えてもなお汗一つかかずに平然としているエゲリヤ。

どうやらミオ並みの魔力は持っているらしい。とすれば厄介だ。

ミオをまんまと連れ去られて怒りは沸点に達しているはずなのに、異様に頭は冴えている。

まるで、静かに激怒するミオのようだと、頭のどこかで思った。


「どこで知った?」


ああ、そうか。温度計が上がりすぎて壊れるように、俺の怒りも沸点を通り越して気化してしまったのかもしれない。

ぼんやりと、しかし理性は冴え切って、現実から離れようとしない頭に嫌気が差す。

馬鹿は何年経っても馬鹿だけれど、変な所で成長するもんなんだな。


「五千年も前、まだ私達の国が「組織」と呼ばれていた程小さかったのは、知っているでしょう?」

「ああ、そうかよ。よーくわかった」


あの組織がまだ生きていたとは俄かに信じがたかったが、これが現実だ。

母は殺され、父は捕獲され、そして俺だけが生き残って。

ふつふつと、何かの感情が湧き上がる。気化した怒りが身体に戻ってきたのだろうか。

いや、これは恐怖だ。

ずっと昔に植えつけられた、組織の恐怖。

フォクスに、神国の目的を告げられた時と同じ、恐怖。


「お前らしつこいよ。何度も何度もやってきやがって、父さんだけじゃ足りなかったのか」

「足りるわ。足りすぎて困るくらい。でも、彼は完璧な存在だから、五千年も彼の魔力を奪うことはできなかったのよ」

「そりゃよかった、ってことはまだ生きてるんだな?」

「ええ。流石に、狂ってしまったけれど」

「………」


言葉の攻防戦は、俺の負けで終わった。

言葉が続かない。

父が、狂気に呑まれたと。女は確かにそう言った。

そうか、ならば生きていてもほとんど死んだも同然なのだろうなと思った。

怒りは再び沸くことは無かった。恐怖も掻き消えた。


残るは、ただ、虚無だけ。


「だから私達は貴方を選んだのよ」


無慈悲な美女の声が響く。


「不完全だからこそ、貴方の魔力は奪えるの」




「そうでしょう?イー・ヴァー・ディドル龍帝国の守護神、銀龍の末裔、シオン・ミュハトルテ」










人 な ら ざ る 、 龍 な ら ざ る 、 半 分 の 子 供 。





+++

第九話。
一回消えたorz

実は書いている間、ずっとサンホラの「お願いっ!ぴこ魔神☆」聞いてました。
歌のテンションに振り回されつつ書いてました。
これじゃ駄目だ、変えなきゃと思って変えたのは「黄昏の賢者」。
これが更にテンションの高い歌でして。駄目だ駄目だ。

結局、「恋人を射ち堕とした日」に治まりました。うあー人死にだよー。

07/04/03




【2007/05/25 23:02 】 | 未分類 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
第八章・貴方の為と思い、想うから

静寂のみが支配する書庫で、アロドはすることを無くしてうろうろと部屋を彷徨っていた。

義父にはフォクスを護衛しろと言われたが、敵が来ないと暇なのだ。

いや、来てもらいたい訳ではないのだけれど。

暇とは、時として苦痛になるのだと、身に染みて理解したアロドだった。


「…あ」


ふと、その目がフォクスの持つ本を捕らえた。

義父が書いたという、歴史書。

フォクスとシオンの会話からすると、この本に義父の正体が書かれているらしい。

そういえば、彼がどうして子供の姿をしているのか、この国の守護者と言われているのか、アロドは知らなかった。

十数年前に孤児だった自分はシオンに拾われて、養子として育てられて。

姿が変わると知った当時は驚いたものだが、今ではもう慣れてしまった。

それが、当たり前だと、思っていた。


「……………」


手が、本に伸びていく。

義父が何者なのか、どこから来たのか、あの脅威的な力は何なのか。

自分と同じ人間なんだろうか。それとも、人間ではないのだろうか。ただの魔法使いなのだろうか。

知りたい。

知りたい。


「止めた方がいいですよ」


アロドの手が本に触れる前に、別の手がアロドを制した。

額に札を貼ったままの間抜けな状態で横になっていたフォクスの手だった。

その顔は相変わらずの微笑み。

どこか寂しそうな、微笑み。


「団長の口から話させてあげてください。あの人もそれを望んでいるはずです」

「……貴方が、それを言えるんですか」


どこか刺々しいアロドの言葉。

偶然とはいえども、勝手に義父の過去を見たくせに、と。


「言えませんね」


符の中身の魔力が尽きて、はらりとフォクスの額から剥がれる。

よいしょっと、と起き上がって体を動かし始める。完全に回復したのだろうか。

病的な白さの顔色は元々だったらしく、そのせいで回復したという感じがしない。

へなへなの帽子を被り直して、彼はもう一度微笑んだ。


「でも、知ってしまったから、言わなければいけないんですよ」


小脇に抱えた厚い歴史書を、大事そうに眺める。

知ってしまったから、この本の秘密を守るのが、他人の過去に触れてしまった罪の償い。

自分の中に潜んでいる精霊が「気にし過ぎだ」とぼやくが、そんな生易しいものではないのだ。

きっと、これは、彼の心の奥底にあるトラウマだとか、心の傷だとか、そういうものだから。

偶然発見したとはいえ、これを安易に他人に見せるべきでないと思ったのだ。


「第三者の私がぺらぺらと話していいことではないんですよ」

「でも」

「私は迷い込んだ通りすがりなんです。通行人Aが主役に重大な事を話してはいけないんですよ」


人差し指を唇に当てて、沈黙の意味のジェスチャーをする。


「これは、貴女と彼の問題なんですから。彼に言わせてあげてください」



黒狐は、にこにこと笑うばかり。

きっとそれは、そう遠くない未来だから。



***



「プリム!」

「はぁ~い、なんですかぁシオン様~」

「様付けしなくていいから。魔術師を捕らえるのも任務に入っていたっつーのは本当か?」


ここは四階の廊下。この上の階が謁見の間である。

廊下を駆けて行くのは四人と一匹。レスとシオンは足で、デンとプリムは馬で目的地へと向かう。

その途中、シオンがプリムに訊いたのだった。


「そうですよぉ、だからあたしはあのフォクスって人を捕まえる為に扉ぶち破ろうとしてたんですぅ」

「プリムちゃんってシオンさん相手だと対応違いますよねぇ」

「あんたみたいな軟派っぽい優男は信用できないのよ」


確かに自分がモテるのは自覚はあるけれど、そう言われると流石のデンも傷ついたようだ。

ひどいなぁ、俺そこまで女好きじゃないですよー、とぼやく。

そんな小さな笑劇を小さく笑いながら見つつ、シオンは全員に聞こえるような声で言った。


「だとしたらミオが一番狙われやすいな」


ミオは皇帝としての能力も優秀だが、魔法使いとしても有能だったしな、とシオン。


「それってやばいんじゃないか?」

「ん?」

「城の中まで敵がいるってことは、そのミオって奴の所まで来てるはずだろ?」

「ああ。けど、あいつなら返り討ちにするさ。よほどの事がない限り後手に回ることは無いよ」


あいつ敵には容赦ないしな。

にこにこと微笑んで高位魔術を連発してきた青年を思い出して、笑う。

十年前はまだ18という年齢の若造だったのに、誰よりも人と魔法の扱いに長けていた若い地方貴族だったのに。

今でもまだ若造の域にあるが、この国をその身一つで動かしてきた強者。


「なんでそんなに自信あるんだよ」

「あいつは俺の子供みたいな奴で、弟子で、親友だ。誰よりも信頼している。そんくらいの自信がなきゃ皇帝を任せたりしないよ」

「………お前マジでいくつだ」

「お前の何倍も生きてるからな、数えきれないくらいだよ、「若造」」


外見が子供の奴に子供呼ばわりされてレスは眉間に皴を寄せた。

もちろん、前髪のせいで外からは見えなかったのだが。

あともう少しで、謁見の間に着く。

あともう少し。

あともう少しで。



「レス!!」

「あ?…うわっ!」

「敵襲です!」


階段を一段、上った辺りで敵が転がり落ちるように上階から下りてきた。

実際転がり落ちる者、飛び降りる者、転んで仲間に踏み潰される者、様々といるが共通しているのは。

皆、無表情。


「味方だったにしても、ホント、こいつら気持ち悪いね」


獣馬の上から、プリムが大きな斧で人形兵士を屠っていく。

ごろんごろんと赤い液体状に凝固した魔力を散らしながら、人形の頭が階段を転がっていく。

プリムの言葉に、頷いて同意を示したデンはハルバートを振るって人形を数体同時に薙ぎ払う。

シオンは魔法で、レスは二本の刀を抜刀して、それぞれ道を切り開いて階段を登る。

上階に登った後も、やはり人形兵士が大勢待ち構えていた。

一人一人違う顔。人間らしい顔をしているのに、人間でない。

自然の摂理に反した存在、それが魔道人形(マリアネッタ)。

まるで人を斬ったようで、否、人を斬ったよりも気分が悪くなる。

次から次へと現れる人形に辟易しながらも、四人は敵を切り裂き、道を開き、観音開きの扉へと突き進む。


「全員、いるか!?」

「なんとか!雑魚も多すぎると厄介だな!!」

「こっちも何とかへーきですよー」


何故か扉の周囲に人形は近づこうとしない。ひょっとしたら司令官に中に入るなと命令されているのかもしれない。

ともかく、目的地に辿り着かなければいけない。

目の前の兵士を斬り倒し、蹴り倒し、しがみ付いてくる者を振り払って、何とか扉の近くまで着いた。


「そのまま突っ込め!雪崩れ込むぞ!!」


足に、首に、人形がしがみ付く。正直言って、邪魔だ。

中に入ればミオがいる。ひょっとしたら敵と対峙しているかもしれない。なら、一刻も早く助けなければ。

戦闘を走っていたシオンが最初に扉に激突。

その後ろから獣馬が横向きに体当たり、最後にレスが肩で扉を押し開けて、重い扉が開いた。

ずざぁっ、と音を立てて四人と獣馬が謁見の間に雪崩れ込み、その上に兵士が圧し掛かってくる。

このままでは圧死する、全員が思った瞬間、声が響き渡る。


「下がりなさい」


凛、と広すぎる部屋に女性の声が響き渡る。

それを聞いた兵士が一斉に立ち上がり、一分もかからないうちに部屋から出て行き、重い扉が閉じられた。


「シオン、やっと来たのか。待ちくたびれたよ」


今度は低い、男性の声。よろめきながら四人と一頭は立ち上がる。

大勢の敵に囲まれて無傷な訳が無い、細かい切り傷や打撲痕、衣服は赤い液体に染まっていた。

流石にあの数を相手にするのは無謀だったか。しかし大型魔法を撃つには時間が足りなく、強行突破しかなかった。

戦闘後の疲労を感じつつ、シオンは思い、自分を呼んだ者を見る。


「ミオ…」


黒い長髪の男が飄々と笑っている。

彼こそ、この国の皇帝、ミーア・ディロイ・ヴァムストル。通称、ミオ。

10年前よりもいくらか背は伸びたようだが、あまり変わっていない様子だった。


「本来なら再開の抱擁とかするべきなんだろうけど、状況が状況だから、そこは割愛させてもらうよ」

「お前な、そんな事言ってる場合か」


呆れたように、シオンが言う。

見れば、ミオは何者かと対峙していた。しかし部屋の照明がいくらか壊れているせいで暗く、顔は見えない。

どうやら、少女を人質にとっているようだ。

恐らくこのせいでミオは敵を一掃できないのだろう、それでも今まで敵と交渉して時間稼ぎしていたのは、人の扱いに長けたミオだからこそ成せる技だ。

しかし長く交渉していたせいか、人質を取っている人間は苛立っているらしい。


「いい加減にしろ!へらへら笑ってんじゃねぇ、こいつをぶっ殺すぞ!!」

「ひっ!」


少女が小さく悲鳴を上げ、身を竦ませる。

敵は口調からすると男だろうか。魔力の気配がしない為、魔道人形ではない、生身の人間だろう。

しかし司令官にしては短気過ぎる気がしないでもないが。


「ああもう、待ってられねぇ!このガキを殺されたくなきゃとっとと…」

「捕虜になれ、でしょう?何度も聞かされては覚えてしまいますよ」


にこり、と笑うミオ。

それが相手の怒りを更に上昇させたらしい、敵は怒りに震え上がった。


「畜生、殺してやる、殺してやるぞこの野郎!!」


その腕が天に向かって上がっていく。

手にした獲物は、炎に煌く大鎌。

遂にその怒りが沸点に達したらしい、人質を殺すつもりだ。


「待ってください」


相変わらずの笑顔で、ミオが言い放つ。

笑ってはいるが、その言葉は凛とした雰囲気を纏い、敵の動きを支配する。

鎌を手に、天に向かって腕を振り上げた姿で、敵は静止した。


「ああ?」


地の底から湧き上がるように、トーンの低い声。

気の弱い者ならば、悲鳴を上げて逃げていくだろう。

しかしミオは図太い神経の持ち主だ、微笑みながら敵と対峙する。


「シオン、後は頼むよ」


そして、シオンに向かって、心から笑ってみせる。


笑っていれば何を考えているかなど、誰もわからない。

過去にミオがそうぼやいていたのを、ふとシオンは思い出した。




「いいですよ、捕虜になってあげましょう」










貴 方 の 為 と 思 い 、 想 う か ら 。





+++

第八話
ミオ様は華麗にかっこよく美しく。
だって帝国三大美青年の一人ですから!

よし、次回はミオ様の美貌を苦痛に歪ませてやるぜ!(殿の依頼)

07/03/23




【2007/05/25 23:01 】 | 未分類 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
第七章・龍の住まう家の、神ならざる神

国には、「守護神」というものがある。

建国する時に、国を守護する神を定める事で国の繁栄をその神に願うのだ。

例えば聖ホーストン教皇国は国教の唯一神が守護神と、

例えば六華皇国ヒューザベルズは雪と氷の女神が守護神と、定めている。

もちろんイー・ヴァー・ディドル龍帝国も例外ではなく、守護神は決まっている。

しかし、初代皇帝は無神論者で少し変わった男だった為、神に近きものを守護神の位につけたのだ。


そう、神の如き力を持つ、銀色の龍を。



***



「龍?龍ってあの…「杯」に住んでいたっていう龍族の事?」


後ろからひょっこりと顔を出したプリムが聞く。

この世界は判りやすい地理をしている。大まかに分けて、二つの大陸と一つの大地に分けられる。

この三つの大陸は全て、赤道よりも北部に位置する。その為、夏でも三分の一が雪と氷に覆われている。

まず、一番巨大な大陸、通称「魚」。

反り返る巨大魚のように、頭を北に向け、尾を南に向けた東の大陸。ここにはホーストンや遊牧民の土地であるホロがある。

一番小さな大陸が通称「獣」。

額に一角、長い尾を持った獣の形をした大陸は、「魚」の尾を追いかけるようにして西に位置する。

ここには、現在シオン達のいるイー・ヴァー・ディドル帝国やヒューザベルズ、商業都市国家マーロザなどがある。

この二つの大陸が囲む円形の海を「中央海」と呼び、中央海の北側に位置する台形の大陸を「黒」と呼ぶ。

黒、もしくは黒の大地。ここには人は住んでいないとされ、魔獣や魔物達の住処と古来より言われている。

さて、話は長くなったが、プリムの言う「杯」とは「緑の杯」の略称である。

「魚」の背の近くに位置する杯の形をした島で、ここには数多くの幻獣やエルフなどが住んでいる。

緑豊かな土地で、エルフなどが外界からの侵入者を許さない為に内部はあまりよく知られていない。

その「杯」の住人であった龍族とは、太古より存在する、神と同列にならぶ魔力を持つ高等知能生命体の事だ。

一見「竜」と呼ばれる魔物の巨大化したものに見えるが、二つは全くとは言えないが別種である。

その、龍族の事を言っているのだ。黒狐の青年とプリムは。


「いえ、確かに龍族の事であるのは間違いないのですが…」


アロドが更に後ろから割り込んでくる。


「恐らく、この国の守護神の事ではないかと」

「守護神?なんで龍が国のカミサマなの?」

「龍は神と同等の力を持つと言われていますから。それに、この国の守護神は「銀龍」です」


銀龍とは、その名の通り銀色の龍の事である。

龍族の中でも最も力が強いと言われ、龍族を統治する長の役割を果たすのもこの銀龍だ。

この国の昔話、というよりも建国の話なのだが、初代皇帝は国を統治する際に銀龍の友人と共に戦ったらしい。

その銀龍が今のイー・ヴァー・ディドル帝国を護る守護神という話なのだが、実際今もいるかどうかは怪しい。

そもそも人と龍が友人同士になれるのか。

あくまでも昔話、あくまでも逸話なので、一般には異種族間の友情物語として知られているだけだ。


「でもさぁ、龍って全滅しちゃったんじゃないの?何百年くらい前にさ」

「そうなんですよね、だからこの国の守護神の話もただの昔話、というわけです」

「ふーん」

「…攻めて来たのに、目的も知らなかったんですか?」

「だって、あたし一般兵だし。一般兵の仕事は戦力分散と魔法使いを捕虜にする事だもん」


戦争において、階級の低い兵士は余計な事は知らなくていい、そういうことだ。

しかし魔法使いを捕虜にするとは、ひょっとして人形の魔力に使うのだろうか。

とすれば一刻も早く彼らを助けねば、とアロドは思い、シオンに言おうとして、


「父上?」


返事はない。

呼吸も、していない。


シオンは魔術師の言葉を聞いてから、その場で固まったままだった。

まるで呼吸も、瞬きも、全て無くした静止物のように。

目を見開いて、息もつかないで、恐怖に凍りついた顔で俯いていた。

今までその状態に気づかなかったのは、あまりにも静かに、震えていたからだろう。

アロドは慌ててシオンの肩を掴んで、軽く揺する。


「父上!」

「っ!!」


もう一度、強く呼ぶとシオンは弾かれたように顔を上げた。

目を瞬かせて、ようやく呼吸をして、驚いたような、困惑したような、そして泣きそうな顔をしていた。


「大丈夫か、シオン」

「ああ、多分、まだ、大丈夫だ」


ぽんぽんと横からレスがシオンの肩を叩いて落ち着かせる。

まだ大丈夫。ということは、もう少しで駄目になるってことか、とレスは思う。

シオンは見た目の割りに知識も経験も並みの大人以上にある。だが、意外と心は脆い。

数年の間ずっと二人で行動していたレスはそれを知っていた。

見た目は頑丈そうだけれど、中身はやわい精神。だから、誰かが傍にいなければ壊されてしまう。


「まだ、大丈夫。こんな所で、止まってちゃいけない、から」

「そうかよ」


潰れなきゃいいけどな。

その言葉は音を持たなかった。


「…けど、お前がそんなになるって事は結構重大だってことだな?」

「私情も入ってくるけどな。くそっ、冗談じゃねぇぞ、まだ狙ってやがったのかあいつら」


忌々しげにシオンが呪詛を吐く。

その発言からすると、以前にも龍とやらが神国に狙われたかのような口調だ。


「ともかく、それが本当なら全力で神国軍を追い返さなきゃならない。…そこの魔術師、所属と名前は?」

「…歩兵隊魔術師(アルダ)部隊、第31番のフォクス・クラウンです」


魔力の消費が止まって、ようやくまともに口をきけるようになった魔術師は、そう名乗った。

狐の道化師。直訳すればそうなるが、聞くからにして本名とは思えない。


「偽名か?」

「偽名…というより、仮の名前でしょうか。どうも昔の記憶がないらしくて」

「そうか。貴重な情報ありがとう、後で何か礼をしないとな」

「いえ、貴方に褒めていただけただけで十分ですよ、魔術師団長殿」


フォクスはにこりと、疲れ交じりの笑顔を見せた。

その笑顔につい乗せられて、シオンも微笑み返すが、ふと何かが引っかかった。

いや、何も間違った所なんて無かった筈―――――


あった。

彼は、自分を、「魔術師団長」と呼んだ。

この、小さな少年の姿の自分を、仮の姿の肩書きで呼んだ。


少年の姿の自分は、騎士団長と、養子と、皇帝にしか教えていなかったのに。


「すみません、貴方の本を読ませて貰ったんです」


フォクスが申し訳なさそうに言った。

その手には、魔術書と勘違いしてしまったハードカバーの本。

それは、自分が書いた帝国の歴史書だった。

シオンは目を丸くして本を見つめる。確かに、それはこの書庫にあった本だ。

しかしその本は見つからないように、魔法で巧妙に隠していたはず。


「私の精霊は魔力に敏感なんです。だから、封印を強化する為に力の強い魔術書を選んだのですが…」

「もういい、わかった、もういい。その調子だと俺の事も全部知ってるんだろう?」


過去の過ちを、客観的に文字として残すことで自分を戒めたはずだったのに。

まさか今ここで、自分の正体が、今始めて出会った部下に知られる羽目になるとは。

まったく、知識も経験も揃っていても馬鹿は馬鹿だなと自嘲した。


「けど、今は何も言うな、絶対に。」

「ええ、私自身は言うつもりはありませんよ。…貴方が、言うべきかと」

「お前いい性格してるな…」


書庫の床に、仰向けになって寝そべっている青年を眺める。

穏やかな顔をしている癖に、なかなかどうして、やるもんだ。

久々に説教された気分になって、苦い顔をする。


「わかったよ、後で俺の口から話す。…アロド」

「はい」

「フォクスを回復してやってくれ。後、護衛を。その間に俺らは謁見の間に行くから」


わかりました、とアロドが呟く。

その手には、普段から補充している魔力入りの札。それをフォクスの額にべちりと貼り付ける。

このまま放っておけば札の中にある魔力がフォクスに流れ込む。

全て流れ込んだ時には、普段どおり歩き回れるようになるだろう。


「それとな、フォクス」

「はい?」

「あんまり凄炎を心配させるなよ。あいつ、ぶっきらぼうだけど主人第一な奴だから」


今度はフォクスが驚く番だった。

凄炎とは、フォクスが契約している精霊の名前である。

実はそれなりに高位の精霊だが、フォクスの契約精霊だと知る者は魔術師団の中でも数える程しかいない。

それなのにシオンは、今回始めて出会ったというのに精霊の名を当てた。


「何故、凄炎の事を…」

「俺は精霊と相性がよくてな、ほぼ全ての精霊と仲がいいんだよ」


仕返しだ、と悪戯っぽくシオンは笑う。

どうでもいい事を根に持つ辺り、結構子供だ。


「俺に勝とうなんて、五千年早いよ」

「ははは、それよりも生きている人なんて、いるんですかね」

「いるよ、俺の知り合いに。女運が無くて今も独身な寂しいやつ」


普通、人間は五千年も生きない。

けれど魔力を生命力に変える者は何年も生き延びるという言い伝えがある。

一般に、虚言だといわれているが、シオンが言うと本当の事に思えるのは何故だろうか。


「ま、凄炎はいいやつだから大事にしろよ」


そう言い、シオンはアロドとフォクスを残して扉を閉めた。


後に残るは、静寂。










龍 の 住 ま う 家 の 、 神 な ら ざ る 神 。




+++

第七話。
凄く悩んだ。
ものすごーく悩んだ。
うまく書けなかった感が否めない。

なんか不完全燃焼気味。

07/03/20

07/06/18修正・ちょっと日本語が変だった。




【2007/05/25 23:00 】 | 未分類 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
第六章・偶然の一致ほど怖いものは、ない

だから、まあ、全ては偶然だったのである。


「シオンさん、敵兵が!」

「知るか!!」


廊下の向こうから弓を持った人形が五体、待ち伏せしていたのも。

その人形達の受けた命令が、味方を犠牲にしてでも足止めしろという内容だったのも。

その味方、つまり少女がその場で扉を壊そうとしていたのも。

その扉が、シオンの大事な書物庫の扉だったのも。

そして、そんな状況に居合わせたシオンが、少女の斧を止めるために駆け出したのも。


「え、ちょっ、何!?」


止める方法は、少女を突き飛ばすという少々荒っぽいやり方ではあったが。

しかしそのお陰で、少女は味方である人形達が放った矢の雨を受けずに済んだ訳だ。

突き飛ばす格好の流れに逆らわず、シオンはそのまま床に伏せ、一直線に向かってきた矢を避けた。

その矢の向かう先は、獣馬の方へ。


「禁!」


アロドが符を放ち、即席の結界を作って矢を全て落とす。結界はすぐに、消えた。

ばらばらと矢が全て落ちる頃には、シオンは足で床に簡易型の魔方陣を描いていた。


「アルシュラート!!」


魔方陣から離れ、ついでに少女を巻き込まない為に抱きかかえてその場から離し、叫ぶ。

轟、と魔方陣から炎が湧き上がる。

それは戦火の炎ではなく、優しい、しかし勢いのある巨大な炎。

火炎は数秒もかからないうちに、金色の一角を額から生やした緋色の狼に変貌した。

シオンの契約精霊、「暖炉の」アルシュラート。


「アル、一発決めちゃって」

「合点」


若い男の声を発したその口から、同時に橙色の炎が吐き出される。

火炎は城を燃やす事なく、人形を緩やかに、しかし確実に炙り屠る。

あっというまに人形達は炎に飲まれ、かすかな塵を残して消え去った。


「ふー…危なかったー」

「シオン、先走るなよ。危ないだろ」

「俺を誰だと思ってんだレス。ちゃんと生き残ってるだろ」

「そーゆー問題じゃなくてだなー…」


ぐっ、と親指を突き上げてのたまうシオンに、レスが肩を落とす。

獣馬に乗った二人はいつもの事だからと気にせずに周囲をうかがっていた。

どうやら、もう敵が潜んでいる様子はないようだ。


「さて、と。んでこの子は一体?」


シオンが言っているのは、彼が抱きかかえていた少女。

髪は金色で、肌は浅黒い。それ以外は、フード付きのローブで殆ど隠れてわからない。

もちろんこんな少女が、普段から城にいるわけではない。シオンは最終確認の為に、獣馬の二人に聞いた。


「いえ、俺は知りませんよ」

「じゃあやっぱ神国の仲間かな。にしては生身の人間だし、若いし…」


うつむく少女の顔は、フードのせいでよく見えない。

ぎゅう、とシオンの服の裾を強く握る姿は、どう見てもあの人形達の味方とは思えなかった。

しかしこの少女は重い斧を軽々と扉に振るっていたのだ。只者ではない。


「おい、大丈夫か?」


返事はない。

どうしたのだろうか、と、シオンは少女の顔を覗き込む。

金色の瞳と、少女の瞳―――――鮮血のように赤い、瞳とかち合った。


「お前、その目…」


シオンの吐いた言葉は、それ以上続かなかった。

だって、少女が突然、抱きついてきたから。

そしてこう言った。


「王子様、みーっけ!」


思わず目が点になったのは、言うまでもない。



***



「ってことは、お前さんは神国の人間なんだな?」

「って言っても、居候みたいなもんだけどね。「悪魔狩り」から逃れた悪魔族のほとんどは神国にいるよ」


悪魔族。少女は自分の種族をそう呼んだ。

悪魔族という名称ではあるが、決して悪魔そのものではない。悪魔の類に似た形状を持った人種の事だ。

肌は浅黒く、背には黒い蝙蝠の翼、尖った細い尾と耳。そして、血色をした赤い目。

部分的に悪魔のような特徴を持っている為、他の人種からは嫌われがちな人種で、今までは南洋諸島にひっそりと暮らしていた種族だった。

しかし、数十年前に世界各国の長が集まる「議会」において、聖ホーストン教皇国が悪魔族を「人間」の枠から排除せよと強く押した為に彼らは魔物と同じ扱いを受けるようになった。

ホーストンはヒト族…一般的な人間だけを「人間」と認める国ゆえの案だった。

それに、ホーストンは古来から存在する大国ゆえ、当時の国々は認めざるを得なかったわけだ。

イー・ヴァー・ディドル龍帝国は最後まで断固拒否したが、結局多数決で悪魔族は人間の枠から追放される身となったのである。

今では悪魔族はほぼ滅んだとされているが、まさか東の大陸に逃れ、神国に逃れていたとは。

その悪魔族の生き残りが、今目の前にいる。それがこの少女だ。

もちろん彼女も例外でなく、神国の住民で、神国兵としてこの戦争に参加している事は間違いない。

しかしこれが、なかなかに厄介な事になっていた。


「…つーことは、俺達の敵で間違いないじゃないか」

「でもあたしはシオン様の味方でーす」

「いやそうじゃなくてだな、つか離れろ」


ちゃっかり「様」付けまでしてシオンに抱きついたままの少女は何があったのかは知らないが、


「嫌ですよぅ、あたしぜーったいにシオン様から離れませんからねー」


更にぎゅうぅ、と抱きつかれてシオンは苦しそうに身を引いた。

なんというか、一目惚れされたらしい。

惚れられた当の本人は困惑しっぱなしだが、結構慣れてきたようだ。


「シオンさんも隅におけないですねぇ、いいじゃないですか、女の子に好かれるのも」

「昔っから女に寄られてるお前だけには言われたくねーな」

「あー、ひっどい。俺女好きじゃないですよー。お嬢さん、こんなつれない人やめた方がいーよ?自分勝手ですぐいじけるし」


なんだかシオンをけなしているようにも聞こえるが、これでも一応、少女を離そうとしているのである。

なんたって今は緊急事態。急いで謁見の間まで行かないと、陛下の身に何かがあったら大変だ。

しかし少女は、帝国の女性なら知らぬ者はいないデンの美男子顔にちらりと目を向けてこう言った。


「あたし、優男には興味ないの。男なら体張って女の子助けなきゃ、ねーシオン様ぁv」

「……助けたわけじゃないんだけどなー」


つまり、偶然に偶然が重なって掛け合って何乗もされた結果、シオンが「か弱い女の子」を助けたという事になったのである。

もちろんこれは勘違いである。シオンが助けたかったのは、部屋の扉なのだから。

そういえば、何故少女は扉を壊そうとしていたのだろう。

シオンはふと思い出して訊いたところ、返事は、


「中に魔法使いが立て篭もってるの。部屋全体に結界が張ってあって入れなくて、ずっと叩いてたんだけど」

「別に慌てなくても平気でしたね、シオンさん」

「…結果的に一人の命が救えたんだ、別にいーだろ」

「そーだそーだ優男!可愛い女の子の人口が減るのは世界の一大事でしょ!!」

「別に優男じゃないんすけどねぇ。世界の一大事っていうのは賛成ですけども」


そんな事言うから女好きと勘違いされるんだ、お前は。

アロドからの視線が痛いなと思いつつ、少女に抱きつかれつつ、シオンは小さく呟いた。


「ってぇことは、中に人がいるんだな?嬢ちゃん」

「プリム、よ。嬢ちゃんだとなんか怪しいおじさんの台詞みたいだから」

「………俺はおじさんかよ」


おじさん呼ばわりされたレスは、一応今年で20(だと自分では思っている)だ。

横で事の成り行きを見ていたアロドが吹いたが、それに気づいたのはシオンだけだった。

あ、よかった。視線が逸れた。


「じゃ、結界解除して中の人間助けなきゃな。プリム、だっけか、とりあえず一旦離れててくれ」


プリムが抗議の声を上げるが、有無を言わさずシオンがべりべりとその腕をはがした。

結界を長時間維持するのは相当な魔力を消費する。

早く結界を解除して、中の人間と合流するのが先だろう。

腰についたいくつもあるポーチのうち、一つから符を取り出した。

流派はアロドと同じの為、符の形状も字もアロドと似たものだった。

中央に「解」と書かれている。符は文字によって用途が異なり、この種の符は呪いや結界を解くものだ。


「禁解、滅」


ぱちん、と小さな音がして結界が破れる。

不可視の結界の欠片は宙に四散し、炎属性の魔法で張られていたらしい、小さな火になって消えてしまった。

こんなにもあっけないとは、中の人間はもう魔力をかなり消費していたに違いない。

慌てて観音開きの扉を押し開け、中に入る。

懐かしい、古い本独特の匂いが鼻についた。

壁一面、内側にも均等に並んだ本棚は入り口付近だけ狭い空間がある。

そこに、長身の男が倒れていた。


「おい、大丈夫か!?」

「…味方…ですか?」

「ああ。相当魔力を消費したみたいだな、もう外に敵はいないから安心しろ」


半分嘘で、半分本当の事を青年に投げかける。

何せさっきまで敵で、突然「味方になりますぅv」と言ってシオンに抱きついてきたわけだし。

シオンはうつ伏せに倒れていた青年を反転させ、仰向けにさせてやった。

この様子だと、彼は帝国魔術師団員らしい。手には魔道書らしきものを持っていた。

目深に被った古い帽子には穴が開いていて、ちょこんと黒い獣の耳が突き出ていた。

見れば、穴だらけのマントの横から黒い豊かな毛を持った尻尾が出ていた。

青年は、黒狐の獣人族であった。

獣人とはその名の通り、獣の肉体の一部を体に宿した種族の事である。

この世界ではヒト族の次にポピュラーな人種であり、その数も多いが、外見の違いからかヒト族と対立することもしばしばある。

その為、ヒト族から迫害された獣人達が国を建てた事もあり、その国は亜人国リトナードという呼称で今も存在している。

が、ヒト族と獣人族はどこも仲が悪いわけではなく、中にはこの青年のように、ヒトの中で暮らす獣人もいるのだ。

青年は顔にかかった黒い髪を払おうともせず、突然起き上がってシオンに掴みかかった。

細い腕の割りに、成人男性並みの腕力はちゃんとあったらしい。


「早く、早く皇帝陛下にお伝えしないと…!」

「お、落ち着け、魔力を大量に消費してんだ、あんまり動くな」

「しかし、ごほっ、国に…関わる……」


ずるずると、腕がシオンの肩から落ちていく。

その拍子に帽子がずれて顔があらわになり、両頬に呪術的な効果のある刺青があるとわかった。

顔は蒼白色をしていて病人のようではあるが、なかなか、デンと張れるくらいの顔立ちであった。

しかしもてなさそうだなと、シオンは思う。なんだか不幸背負ってる感じがするから。

そんな事を考えている場合でもなかったけれど。


「とりあえず、落ち着け、折角助けに着たのに死なれちゃかなわん」

「陛下に、言伝を、お願いできますか…?」

「安心してください、俺もいますから。絶対、陛下に届けます」


横に来たデンが言う。騎士団長であるデンならば、国の者は信用するだろう。

黒狐の青年も例外でなく、安心したように息を吐いた。

そして、言う。




「敵の目的は―――――――――…「龍」、です」










偶 然 の 一 致 ほ ど 怖 い も の は 、 な い 。





+++

第六話。
時間がないので手っ取り早く。

フォクスさんなんか勢い的に死にそうなんだけど今の状態orz

07/3/18




【2007/05/25 22:59 】 | 未分類 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
第五章・その笑顔は小悪魔か、大魔王か

「何よ、この結界!全然壊れないじゃない!!」


がん、がんと扉を斧で割る音が、石造りの廊下に響く。

決して小さな物ではない斧が、扉を、否、正確には結界を何度も叩く。

その斧を振るうのは、大きな戦斧に似つかわしくない小さな少女だった。


「でーてーきーなーさーいーッ!!じゃないとあたしが怒られちゃうんだから!か弱い女の子を困らせるつもり!?それでも男なの恥を知りなさい!」


大の大人でも十数回振れば疲労が貯まるであろう大きな戦斧を、軽々と扉に打ち付ける人間を「か弱い」とは言わない。

だがしかし、そんな突っ込みを入れてくれる心優しい人間は、いなかった。

何せ扉の中の人間も必死なのである。

声は聞こえているだろうが、返事をする余裕もないに違いない。

それだけ強力な結界を維持するのはかなりの魔力と精神力を浪費するのだ。


「もう!あんたなんか結界が破れたらこてんぱんにのしちゃうんだから!!」


がいんっ、と耳障りな音を響かせ、強烈な一撃を結界に打ち込む。

しかし結界はびくともしない。それほど、この結界は強力だということだ。

少女は背中の小さな翼を使って外から進入してやろうか、と考えて、いいや無理だろう、と諦めた。

何せ扉ではない壁の部分、隣の部屋からも、この部屋を叩いてみたが全て結界が張られていた。

とすれば窓側もきっと結界が張られているに違いない。余計な力は使いたくないから、やめておこう。


「あーあ、いつまでこんな事しなきゃいけないのかなぁ…」


ぺたり、と結界に寄り掛かってその場に座り込む。

戦火の熱気で火照った体が、石の床で冷えて気持ちよかった。

思えばあれから何年経ったろう。

自分達の種族が異端視され、迫害され、神国へと逃亡し、神国の住民として扱われる代わりに「人間の」兵士として徴兵され。

そうでもしなければ、自分達はこの世界では生きていけない。そんな事に、なってしまった。

これでも「人間扱い」してくれる神国には感謝している。してはいる、が。


「でも…こんなのって、ないんじゃないかな」


自然の魔力を吸って、国周辺の土地を不毛の大地にするなんて。

青々しい木々に、漆黒の葉を宿らせるなんて。

敵国を襲い、魔術師を攫うなんて。

そして、子供でも兵役に借り出すなんて。

自分はともかく、自分の友人や、妹や弟のように可愛がった子供達はどうなったのだろう。

ちゃんと、生きているだろうか。

自分の家族はもういないから、その分心配事がそちらに向かってしまう。


「大丈夫かなぁ、皆…」


自分は強いからいいけれど。

あの泣き虫の少年は無事なんだろうか、しばらく会っていないけれど、死んでたりしたら、どうしよう。

なんだか暗い方向へ、思考が、ずるずると引き擦り込まれていく。

それに気づいて、少女は溜息をついた。


「はぁ……こんな暗い事ばっか考えてたら、素敵な人と巡り会えないよねー」


そんな心配をする辺り、結構図太いのかもしれない、この少女は。



***



「な、ん、か、よっ!アリみてーにわらわら出てくるなこいつら!!」

「多分こいつらは魔力も十分に通っていないような雑魚なんだろう、質より量ってやつだな」


ばさり、ばさりとレスが二本の刀で敵を三枚に下ろしている横で、シオンが暗殺ナイフで敵の首を掻っ切る。

シオンは元々、魔術師(アルダ)よりも高位の魔道師(マグラ)で、もちろん魔法を得意としている。

だが、様々な技を習得しているシオンは魔力の浪費を嫌がり、雑魚はナイフで倒す事にした。


「しかしまぁ、なんつーか、悪趣味だなぁ」

「何が」

「こいつら。無駄に人間らしい体してるくせに、心がないんだぜ」

「それは私も同感です」


レスの言葉に、アロドが答える。その手には符が数枚握られている。

貴女は歩く爆発物ですか、と、デンはひっそり思う。

ひっそり思うだけで口にはしない辺り、すぐに物を言ってしまうレスとは逆である。


「下手に人間に近いと、倒すのを躊躇ってしまう兵士もいますしね」


ぶん、とその腕を振って、飛び掛ってきた人形を二、三体粉微塵にする。

どこをどう躊躇っているんですか、できれば自分に説明してもらいたいものだと、心の中で再び突っ込む。


「アロド、あんまり派手にやるなよ。そんなんじゃ嫁の貰い手もいなくなるぞー」

「父上、今はそんな心配している場合じゃないでしょう?」

「ま、そうだな」


戦場で笑うシオンとアロドの背後で、大の男二人は薄ら寒いものを感じていた。


「…あれじゃ尻に敷く方だよなぁ」

「ですねぇ。俺はもうちょっと大人しい子が好みですけども」

「ま、未来の旦那に合掌、と」


なむなむ、と二人揃って手を合わせた。

未だ見ぬ、きっと可哀想なことになる、アロドの相手はどんなだろうな、などと思いながら、デンは敵を打ち倒す。

多少の笑劇があっても、ここが戦場であるのは変わらない。

デンはとぼけた顔で、鋭く周囲を見回していた。


「うーん、あらかた片付いたみたいですねぇ」

「仲間呼ばれちゃ敵わん、早くミオの所行って親玉倒すぞ。こいつらはただのオトリだ」



***



それから後は意外とあっけなかった。

人形達はシオン一行には適わないと思ったのか、それ以降余り手を出してこなかった。

その代わり、城下に散らばって戦っている騎士団員達を襲い始めたが、きっと大丈夫だろう。

デン曰く、「あいつらなら自分の身くらい自分で守りますよー」とのこと。

そして、こうも付け加えた。


「この程度で死んだら鍛錬サボってたに違いないですよね?死んだら連れ戻して俺が制裁加えますからー」


普段仕事はサボってはいるが、「鍛錬を怠るな」「武器は整備しろ」「馬は大切に」「忠誠心を忘れるな」がモットーの騎士団長。

それを怠ったということは、つまり。

斧槍(ハルバート)を煌めかせたウィノデン・アルノー・トリシャ騎士団長はとてもいい笑顔だった。

…そこらの騎士の張り切りようが急に目立ったのは、言うまでも無い。


ともかく、一行は難なく城に潜入できたという事である。

帝国唯一の城である王城は、実はそれほど大きくはない。

とは言っても他国の城と比べているだけであってちゃんと大きさはある。

首都の街の中央に大きく聳え立つ城は中央が一番高く、中は国家機関の中枢である。

そして中央の城をぐるりと囲み、城下街の中に四つの離宮が設けられている。それぞれ、東西南北に分かれていた。

離宮と言っても、実際皇族が住まいとして使うのは東の離宮だけであり、その他は国の施設として使われる。

北の施設は帝国騎士団の兵舎。デンが日々寝泊りしているのもここだ。

西の施設は国の領主が集まり、政治を話し合う議会場兼書物殿。アロドがここと、皇帝の間をしょっちゅう行き来している。

そして、南の施設は帝国魔術師団の兵舎兼魔術研究所。新しい魔法を考案したり、精霊を召喚したりと忙しい場所だ。

その三つの施設を最終的に統治するのが、中央の城である。もちろん、王座もここにある。

城には騎士団長、魔術師団長、皇帝三人の執務室や来客用の部屋、広間などがある。

他の国の城よりもなりは小さい癖に、結構充実した城であった。


「意外と、城の中はそんなに酷くねぇみたいだな」

「石造りだからな、燃える物がなきゃ燃えないだろ」


城内を歩く四人と一頭。室内では馬に乗れない為、デンは愛馬から降りていた。

一応城内は天井も高い為、馬に乗っても十分余裕はあるが、シオンに睨まれたのである。

ここは国の大切な場所。余り暴れるなというのが、国の守護者である彼の言い分だ。

しかし重い武器と、軽装備とはいえ鎧を着ているデンはどうやっても三人よりも遅くなってしまう。

仕方なしに、本来急がなければいけないのに、全員が歩く羽目になったのだ。

もちろんデンは少し、いやかなり、不満だったわけである。


「燃える物、ねぇ」

「どうしたデン?」

「いや、なんとなく…ほら、すっごく燃えそうなものあるじゃないですかー」


ちらり、とデンが上の階に目を動かす。

つられてシオンも視線を上に動かして、顔を青くした。


「………」

「ほら、シオンさんの大事な大事な魔道書とかー」


この中央の城には、今は不在のロッソ・ヴァン・ダルダム魔術師団長が管理する、魔術書の書庫もあったりする。

ちなみにその「ロッソ」とはシオンの仮の姿である。職権乱用で自分の書庫を作ったのだ、この少年は。

そのくらい自分の集めた本を愛しちゃってるわけだ、こいつは。

もちろん魔術師団員には貸し出しするが、返さないとふてくされる。汚すと激怒する。破れば、押して知るべし、だ。

その本が今まさに燃えようというのである。彼にとっては一大事だった。


「デン何ちんたら歩いてんだお前早く行くぞっ」

「えーでも俺あんまり早く走れないんですけどー。馬使わせてくれたら追いつけますよー?」

「ああわかった、わかったから、早く走るっ!」

「さっすがシオンさん、話がわっかるぅ♪」


ひらりと愛馬に飛び乗り、その後ろにアロドを乗せるデン。

シオンとレスはかなり足が速い。もしかしたら、馬に勝てるかもしれないくらいだ。

しかしアロドは一般人(というと二人がまともでないように聞こえるが)なので二人一緒に獣馬に乗るわけである。

獣馬は細く、しなやかな体の割りに、結構力がある。これだけの重さでも軽々と階段を跳躍した。

その途中、アロドがデンに、小声で囁いた。


「騎士団長様」

「なんですか、アロドさん?」

「こう言ってはなんですが…父上の扱い、上手くなりましたね」

「まぁ、陛下と一緒にいたらなんとなくわかりますよー」


にんまり笑顔で答えるデンは、結構いい笑顔をしていた。

その会話にシオンが気づいている様子はない。完全に気が違う方に向いているからだ。

全員が階段を一気に駆け上がり、そして――――




そして、三階に辿り着いた一行が見たものは。


「あ」

「あ」


背の低いシオンよりも小さい少女が、結界の張られた扉に戦斧を振るおうとしている所だった。

その扉の向こうは、シオンの大事な書庫。


…ここであえて言っておくと、結界というのは実際に触れてみないとわからないのである。

もちろんそれはシオンでもミオでも、見ただけでは判別はつかない。

ある種の道具や魔法などを使えば判別はつくが、この時の彼には余裕がなかった。

何せ自分の大事な書庫の扉が、叩き壊されようとしているのだから。


三階に着いた瞬間、シオンがそれを止めようと駆け出したのは、仕方ない、彼にとっては当然の事だったのだ。

だから、その少女ごと始末しようと待ち伏せしていた人形に気づかなかったのも、きっと彼のせいではないのだ。



たぶん。










そ の 笑 顔 は 小 悪 魔 か 、 大 魔 王 か 。





+++

第五話。

なんか暗いのでギャグっぽく。
いえ狙ったつもりはありません。インフルエンザのせいです。
今結構熱高いです。でもネタの神様が光臨したのです。
結果、デン様が妙に腹黒くなってしまった罠。

あ、タイトルはデン様の事です。にやにや(´∀`)

07/03/16

07/06/18修正・東の離宮が二つもあった。西の離宮はどこへ消えた(笑)




【2007/05/25 22:58 】 | 未分類 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
第四章・僕達にできるたったひとつのこと

「困りましたね」


呟いた。


「本当に、困りましたね」


もう一度、呟く。

この部屋の外には敵がいて、幾人もの魔法使いが連れ去られている。

もちろんこの部屋だとて安全な訳ではない。

私の頬を、汗が垂れる。

扉が、叩かれている。正確には、扉にかけられた、結界が。

元々私は体が丈夫な方ではないし、接近戦をされれば苦戦を強いられる魔術師(アルダ)だ。

敵が大勢であれば、逃げるしかない。結界を張って、部屋に閉じ篭る。

捕まれば間違いなく、強力な魔力制御装置を付けられて敵兵に連れ去られるだろう。

今はこの部屋―――魔術師団長の残した巨大な書庫――を、死守するのが先決だ。

別段、本が大事な訳ではない。いや、大事ではあるがそれよりも、自分の身を守るので精一杯なのだ。


敵の目的を、敵の正体を、知ってしまった。


それはただの偶然だった。

敵襲と知り、魔術師団は防衛に回ったが、瞬く間に全員捕虜にされてしまった。

そう、大規模な範囲での「魔法封印術」をかけられて。

あれほどの規模で、あの術が使える人間はそうそういない。敵は、とても強い。

私はその術の範囲外に偶々いたから逃げられたが、逃げる途中、聞いてしまったのだ。

城に入った敵兵の言葉を。


「伝え、なければ」


誰に?皇帝に?それとも、魔術師団長に?

誰でもいい、とにかく、誰かに伝えなければ。

彼らの狙いは、帝国の国土ではない。ましてや、財産でもない。

たった一つの目標の為に、彼らは動いている。

そしてその為に、多くの魔術師が捕らえられている。


「主、顔色が芳しくない、無理はするな」


私の中から聞こえた声。それは、ずっと昔に契約した精霊の声だった。

魔法使いは単身でも魔法は使えるが、精霊と契約する事で更に強力な魔力を得る事ができる。

しかし、契約するには精霊以上の力が必要となる。その為、契約精霊をつけた魔法使いは少ない。

私の場合は例外で、どういうわけかこの精霊に好かれてしまい、訳も分からず契約してしまったのだが。

それでも、この精霊は一心同体の仲間であり、心強い友であった。


「いい、え。凄炎(せいえん)、もし私がここで捕らえられたら、国は終わってしまう」

「ならば我が護る。結界を解け、我は主に指一本たりとも触れさせはしない」

「そうすれば貴方が傷つく」

「構わぬ、主を護る為ならば」

「いいえ、駄目です。私が許しません」


精霊とて怪我をすれば傷はつく。痛みもある。死んでしまえば蘇るが、記憶を無くして、契約も切れてしまう。

それだけは、嫌だ。自然と腕に力がこもる。

扉の結界は、私が最も得意とする炎属性の結界だ。戦火の広がる今ではその威力も大きい。

しかし、その力がいつまで持つか。

凄炎の力を借りているとはいえ、魔力にも限界はある。持って、あと30分。

その間に、味方が来るとも限らない。しかし、待つしかない。

もしも万が一、と想像して身が震え、黒い耳と尾がぺたりと体に張り付く。

それでも、私は。

私は、精霊と、この情報を守らなければ。


それが、ろくに戦えもしない、私のできるたった一つのこと。



***



「マリア、ネッタ…?」


なんだそりゃ、とレスが首を傾げる。

レスが無知な訳ではない、デンも、アロドも、その文字列に聞き覚えはないようだ。


「知らないのも無理はない。相当昔から極秘に研究されてきた技術だ。まさか、完成していたなんてな」

「そのー、魔道人形、でしたっけ?本当に「人形」なんですか?」


そう、デン。

先程手刀を加えて絶命させたその、「人間に似た人工物」は物音一つ立てない。

どう見ても、人間の死体にしか見えないそれは、物言わぬ「物」だとはとてもじゃないが思えなかった。


「何ならレスみたいに飲んでみるか?まだ残ってるぜ」

「遠慮しときます。さっきの見てて不味そうなのはわかりましたから」

「普通の人間ならな。アロド、飲んでみろ」

「わ、私ですか!?」

「お前なら平気だ、符術はちゃんと使えるだろ?」


それは使えますけれど、とアロドは口籠る。

しかし尊敬してやまない義父の言葉にとうとう折れて、その液体を指に浸す。

恐る恐る、それを口にした。


「……………………………………あ、れ?」

「な、平気だろ」

「はい、というより…甘い、です」

「だろー?」


唖然とするレス。分けがわからないデン。

先程レスが味見して、あれほど不味い不味いと連呼していたのに、この差はなんだと。

別にレスは演技をしていた訳でもなく、嘘を吐いた訳でもない。

ならば何故、と疑問符を頭上に乗せた二人を横目に、シオンはその液体を全て飲み干した。


「お、おい…平気なのかよ?」

「へーきへーき。この赤い水、術者にとっては良薬にもなるんだ。表でも裏でも、取引はされていないけどな」

「え、つまり…俺は術者じゃないから駄目って事かよ」

「ああ。デンなら平気だったかもな、魔術の心得は多少あるだろ?」

「ええ、まあ、一応聖騎士(パラディン)ですから」


騎士にも様々な種類がある。大きく分けて、魔術騎士と武装騎士の二つだ。

武装騎士はごく一般に知られる騎士の事だ。武器を使用し、戦場を馬で駆け巡る機動力のある戦士である。

魔術騎士というのはその名の通り、機動力があって魔術を使用できる騎士だ。

イー・ヴァー・ディドル龍帝国ではこのタイプの騎士は珍しくない。

元々魔術に特化した国である、騎士であっても炎を出したり小さな傷を癒したりするくらいの魔法はできる。

もちろんデンも例外ではなく、神聖属性、つまり回復魔法が使える「聖」騎士であり、魔法は使える。

だが、その能力も余り目立ったものではなく、斧槍を振るう姿はどちらかというと武装騎士寄りだ。


「でも、何故術者とそれ以外で味が変わるのですか?」

「答えは簡単だ。この水は、魔力が通っているんだ。術者なら魔力は好物だろ?」

「ああ、なーるほど」


ぽん、と手を打つデン。


「魔術の心得のある人間なら魔力を受け入れられるけど、それ以外は体が魔力を受け付けないんすよ」

「だから俺の場合、体が拒否反応を起こしたって事か?」

「ま、そーゆー事っすね」


うんうん、と横でシオンが頷いて、手に付着した残りの液体をべろりと舐めた。

あっという間に赤い色は、シオンの白い手から消えてなくなる。

そんなに旨いのか、信じられねぇ、とレスがひとりごちた。


「でも、水に魔力を通わせるなんて聞いた事もありませんが…できるとしたら、とっくに出回っているはず」

「水っていうより、これは魔力そのものだよ。抽出した魔力を凝縮させて、液状化した物だ」

「んな事できんのか?」

「ああ。凝縮して液状化する方法は知らないけど…抽出には、ちょっと、法とか、人の道外すんだよなー」


聞きたーいー?と、シオンがにやっと笑って思わせぶりな仕草をした。

知らない事だらけで好奇心が完全に顔を覗かせていた三人は、こくこくと揃って頷いた。


「魔法使いの魔力を、使ってるんだよ。もちろん魔力を全て取られた魔法使いは死んじゃうけど」


「ぶ、なんつーもん飲ませてんだあんたはー!!!?」

「わ、私…美味しいと思ってしまいました…ッ!!」

「よかったー俺飲まなくて」

「ああ、大丈夫大丈夫。この凝縮液はあんまり質がよくないから、大気中の魔力使ってるんだと思うよ」


予想通りの反応にからからと笑うシオン。

知らなかったとはいえ、うっかり飲んでしまった二人は揃って溜息をついた。

仲は悪いが、思う事は同じだった。なんて物を飲ませてくれたんだと。


「で、わかったろ?こいつは魔力凝縮液を血液の代わりに使って動いている、人形なんだ」

「でも、その体はどう見ても…」

「これも人工物だ。よく出来ているけれど、本物の肉じゃない。肉にしか見えないけどな」


はぁ、と今度はシオンが溜息をついた。


「随分と前にこいつらの噂は聞いていたんだけどな、まさか本物だとは思わなかった」

「って、シオンさん知ってたんすか?」

「ああ。……かなり、嫌な思い出も色々と出てくるんだけども」


苦々しい顔のシオン。どうやら、相当思い出したくない記憶のようだ。

デンはそれ以上深く突っ込むのをやめて、黙る事にした。

誰にだって聞かれたくない過去の一つ二つはある。自分だってその一人だ。


「でな、話は戻るが…この、魔道人形が暮らす国がひっそりとあるらしいんだ」

「魔道人形の、国、ですか?」

「ああ。どこにあるのかはわからないが、魔道人形が統治する国があるんだそうだ」

「…………」


「その国の名は、神国フィラータという。」


フィラータ。それは、古代語の「フィー」と「ラーター」を合わせた造語。

操り人形(フィー)の、幻想曲(ラーター)。


「全ての魔道人形の元となった「神」…つまり、国主を始めとしてほぼ全ての住民が魔道人形なんだそうだ」


人形の国。

子供が描くような、夢のような想像しか思い浮かべられない言葉だ。

しかし彼らは、実物を見てしまったのだ。まるで悪夢のような、人間によく似た人形の、死体を。

次から次へと出てくるイメージは、醜悪な夢物語にしか思えなかった。

ごくり、と唾液を飲み込んで、レスは込み上がる吐き気を抑えた。


「………なん、つーか、想像もしたくねぇな」

「ああ。だけど、現実だ。俺も認めたくはないけれど、嘘や虚言じゃない。本当にあるんだよ」


全員が、大きく、息を吐いた。

人でないものが、人の形をとって生きている。

それはまるで、悪夢のようで、醜悪な幻想のようで。


ならばこの戦争は、操り人形の奏でる幻想曲とでもいうのか。

そう思うと、全てが壮大なオーケストラにすら聞こえてくる。


剣のかち合う音が、

炎の燃え盛る音が、

斬り倒された兵士の叫びが、

馬の嘶きが、

建物が崩れ、壊れる音が、


自分の荒い、呼吸さえも。


「つまり、これは――――――――」


シオンが腕を横に振るい、濃紺の外套が夜風に吹かれてはためく。

その背後には、燃え盛る街が、城が、空が、炎を纏った壮大なパノラマが広がっていた。

まるで何かの絵画のような、その景色。


「神国フィラータの、仕業だ」


そう、これは「神」に操られた人形達の奏でる幻想曲。

幻のような、それでいて悪夢のような、覚めるわけのない現実。


「…行くぞ」

「どこに?」

「決まってるだろ」


シオンの瞳が、月の光を浴びてぎらりと輝く。

金色の瞳はさながら、獣のようで、穏やかな満月のようで。



「ミオの所へ、だ!」





この、壮大で醜悪な、夢とも幻ともつかない現実を奏でるマリオネット・ファンタジアを止める為に。










僕 達 に で き る た っ た ひ と つ の こ と 。





+++

第四話。

やっと正式タイトルを。マリオネット・ファンタジア。
そこ、GARNETCROWだとか言わない。一応スペルは違う。
「Marionette Phantasia」でどうぞ。
あれです、テイルズオブファンタジアの「Phantasia」で。
壮大なる、幻のような操り人形達の幻想曲を。

「人形」だけじゃなく、「人間」もなのですよ。

07/3/12




【2007/05/25 22:58 】 | 未分類 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
第三章・それは悪夢より絶望的な真実
さて、この状況をどうしたものだろう。

イー・ヴァー・ディドル第117代目皇帝ミーア・ディロイ・ヴァムストルは微笑む。

表向きは穏やかな笑顔ではあるが、内心、目の前の破壊者を吊るし上げにしたい程に感情が荒ぶっていた。


「さあ、どうする?皇帝さんよ」

「貴方達に皇帝と呼ばれるのはなんだか気が引けますねぇ。名前でいいですよ?」


その称号は、あの人から貰った地位だから。

私の名ならば幾らでも呼べばいい。私は幾ら穢れてもいい。

だが、その地位を、その帝座を穢せば、私はきっと破壊者全員を皆殺しにするだろう。

そう―――――目の前の、人質ごと。


「卑怯な人達ですねぇ。私は逃げも隠れもしないっていうのに、その子だって未来があるんですよ?」

「知った事じゃねぇよ。オレらだってアンタを連れて行かなきゃ仕事になんねぇんだ、早くしねぇとこのガキぶっ殺すぞ」


荒っぽい口調で捲くし立て、敵は少女の首に二つの鎌を交差させた。

鎌が近づけば、彼女の首はぽろりと、落下するだろう。

それはなるべくなら避けたい。彼は国民であり、国民は国を成すものであり、国を護るのは皇帝の仕事だ。

しかし、あくまでも「なるべく」というわけだ。

もし万が一皇帝の逆鱗に破壊者達が触れれば、この場にいる全ての生き物は皇帝を残して四散するだろう。

それほどの魔力を持つ、この皇帝は、この国の守護者以上に残虐な事ができる。

確かに、あの守護者は皇帝よりも遥かに強い。しかし、時の止まった肉体は、心も時を止めたまま。

恐らく、皇帝よりも残虐な事はできないだろうと、予測される。


「み、ミーア、さま」

「大丈夫だよ。大丈夫だから。…もう少しだけ、待っていてくれ…あの人が来るまで」


最後の言葉は、誰にも聞こえる事なく、戦乱の夜闇の中へと消えていった。

シオン・ハーティリー。

彼が来れば、私は。



***



「マジでか」

「至極真面目だが、何か」


あちこちで戦の音が響き渡る、この城下町。

唖然とする剣士と、平然とする少年と、騎士と、皇帝直属秘書が、輪を作って座っていた。

とりあえずは皆で情報交換のち、全員で行動という事になったのだが。


「娘か、これが!」

「これ、とは失礼な!私がシオン様の養子であるのは揺ぎ無い事実だ!」

「でもシオンはどう見てもお前より年下だぜ」

「お前、じゃない!アロドだ!!」


つまりは、どう見ても15歳のシオンが20を越えたアロドの義父とは見えないという話なのである。

それは確かに誰が見ても思うだろうが。


「こー見えても俺、結構長生きしてるぜ?」

「それは何となく直感でわかった。お前絶対年齢詐称詐欺してると思った」

「詐欺とは失敬な。この国じゃ「ロッソ・ヴァン・ダルダム」っつー名前でちゃんと大人の姿してるから平気だ」


びしっ、と親指を立てるシオン。

そういう問題じゃあないだろう、と騎士は黙って眺めているがあえて何も言わなかった。

だってこの国の守護者。なんたって守護者。子供に見えようと守護者。先程の魔法の破壊力で痛い程わかった。


「つーわけで、「ロッソ」の義娘のアロド・ヴ・ムスタ。俺の可愛い娘で皇帝直属秘書です」

「…」


どうやらレスは早々から嫌われたらしい。握手をする所か目を合わせてくれさえしない。

なんだか侘しい物を感じながらも「どうも」と軽く挨拶をする。

ちら、と睨まれてすぐにそっぽを向かれた。なんなんだ。


「んで、こいつが帝国獣馬騎士団団長のウィノデン・アルノー・トリシャ」

「どもです、デンって呼んでくださいな」


へらりと笑って手を差し出す騎士は、白髪に近い灰色の髪と翠玉色の瞳をしていた。

それなりの長身だったが、レスには程遠く、頭一個近く差がありそうだ。

何たって2mと180cmでは相当違う。

軽く会釈して、手を握った。騎士らしく、手は武器を握った肉刺で一杯だった。


「で、二人とも。こいつは数年前俺が拾った行き倒れの「ネイムレス」」

「記憶喪失ってやつでな、名前もわかんねぇから名無し(nameless)っていうんだ。まあレスって呼んでくれ」

「そんで俺が放浪者なシオン・ハーティリーさんってことで、自己紹介タイムは終了」


手刀を作って、空を切るジェスチャーをするシオン。

さて、と話題を持ちかける。


「まずは情報交換といくか。敵はどこの方角から来た?」

「十時の方角に突如現れた模様です。敵軍は瞬間移動魔法を心得ているようで、一個小隊毎に次々と」

「中には魔物もいましたねー、大体500程の人数で隊が形成されて、10隊近くはありました」

「魔物に五千の兵、どこの国の軍隊だよ…おまけに質もある。随分とでけぇ相手だな」


がしがしと、量の多い髪に手を突っ込み頭を掻くレス。

確かに、瞬間移動魔法を習得している魔法使いはそうそういない。

この帝国全体でもシオンと皇帝の二人しか持たない、難易度の高い魔法だ。

しかも一個小隊を30~50と考えて、それをまとめて送るには相当の魔力が必要になる。

シオンですら、自分を遠くへ瞬間移動させようとすればそれなりに魔力は減る。

瞬間移動魔法と相性が合う人間というのも時偶にいるが、相手はなかなかに強敵だ。

それに、魔物使い…召喚術士だろうか。魔物を使役する召喚術士も、そうはいない。

それを何匹、何頭も使役するとなると相当の使い手だろう。天賦の才があるに違いない。

敵は手駒も、人材もそろっている。

苦戦を強いられるのは間違いないだろう。


「で、ミオは?」

「へーかなら城で防衛中ですよー」


妙に間延びした言葉で、デンは答えた。


「「私の事はいいから、外の兵士を助けてあげなさい」って追い出されちゃいました」

「相変わらずだなー、あいつ。自分が皇帝って事自覚してんのかよ」

「一応自覚はしているみたいですけどね、自分の命よりも父上の心配ばかりしてるみたいですよ」

「それはそれは」


苦笑するシオン。

昔から皇帝は誰よりもシオンを第一にしてきた節があった。

それはシオンが皇帝の育ての親であり、親友であり、恩人であるからだろう。

普段は微笑んで感情を表に出さないが、いざ激怒するとなるとシオンでも萎縮してしまう程だ。

親子のような間柄なのに、親が子に萎縮するとは笑い者ではあるが。

しかし、それほど、ミオという男は冷静沈着かつ、隠れた激情家なのである。


「所でシオンさん、結構落ち着いてますけどひょっとして首都が襲われてるって情報出てます?」

「いや、途中でお前の部下と姫に会った。それで、俺の契約精霊使ってここまで走ってきたわけなんだけど」

「そうすか。いや、よかったよかった。アディラの奴ちゃんと逃げられたんですねー」

「心配ならお前も行けばいいだろ」

「まぁ姫様美人ですしねぇ。俺も騎士として、男として、お供したかったんですがねぇ、やっぱり団長としてへーか守らなきゃ」


にへら、と眠そうな顔に満面の笑みを浮かべるデン。

普段から居眠りしたり勤務中に脱走したりと問題ばかり起こしている団長だが、こういう時こそ一番の忠誠心を発揮する。

だからこそ、シオンは10年前、ミオと同時にデンの地位も上げたのである。小隊長から、団長へと。


「じゃあ、とりあえず目下の目標はミオの所まで行く事だな」

「え、敵兵倒すんじゃないのか?」

「ばーか、キリがないだろ」

「それに、それほど強敵でもありませんしね」


アロドが言い、腰のポーチから小さな紙を二、三枚取り出す。

それには「爆」という墨で書かれた大文字と、周囲に小さな文様を描いた符。


「ヨヤミニトドロケシンクノホノオ!」


ひゅ、と腕を振ると同時に符が前方へ吹き飛び、レスの背後を取ろうとしていた敵兵に付着した。

そして。


「『爆』」


爆発した。


「…………………符術士かよ」

「背中がお留守でしたよ。それでよく生きてましたね」


アロドの嫌味。

元々短気なレスは、もちろん激怒するわけで。


「しょうがねぇだろ、あいつ全く気配がしないんだぜ!」

「あら、それでもあれだけ近づいていれば気づかない訳がないでしょう?剣士なんだから!」

「気配がしなかったら気付かねぇのは当たり前だろ!」

「私はわかったのに!」

「しらねぇよ!!」


ぎゃいぎゃいと喧嘩を始める二人。あまり馬は合わなさそうだ。

それを見て、あーあ、とデンがぼやいた。


「アロドさんったら妬いちゃってー。シオンさんと一緒にいたからってそんなに気に食わないですかねぇ」


その言葉は、誰も聞かなかったが。

アロドはレスと口喧嘩をしているし、レスもまた然り。

残るシオンといえば、


「……………レス?」

「んあ?」

「お前が、気配に気付かなかったって本当か?」

「ああ、さっぱりだ。あんなに近いのに気付かなかった」

「…………妙だな」


眉根を寄せて、考え込むシオン。

その目が炎を見つめ、城を見つめ、そして、爆発して瀕死になっている敵兵に視線が移る。

ふと、何か思いついたのか敵兵へと駆け寄った。


「ああ、なるほどな」

「父上、何か分かりましたか?」

「うん、まあ、ほぼ確実って所かな」


だらり、と敵兵の腕を掴んで持ち上げる。

その腕の肉は裂けて、液体がぼたりぼたりと地面に染みを作っていく。

見なくても分かる、それは赤い、鉄錆の臭いのする、血液に違いない。

その血を、手で椀を作って溜めたシオンは言った。


「何だと思う?」

「何って…血、だろ?」

「舐めてみな」


ほら、と差し出した手の中の液体を、レスは覗き込んだ。

月明かりと壊れた街灯に照らされた液体は、ゆらりと赤い水面を振るわせた。

恐る恐る手を伸ばし、指に染み込ませて舐めてみる、と。


「―――――――――――っ!!!!!!???」


それは鉄錆の臭いとは程遠い臭い。

まるで何かの苦い薬のような、薬品のような、それでいて水のような、しかしどこか自然でないものの感触。

それは、明らかに、血ではなかった。

げほげほと咳き込み、血のようで血ではなかった液体を吐き出す。


「おま、殺す気か」

「大丈夫、死にゃーしねーよ。薬みたいなもんだと思えばいい」

「血ではない、となると…この者は……人間でない?」

「うぇー、何か気味悪いですね」


がくがくと揺れて、今にも死にそうなその敵兵はどう見ても人間にしか見えない。

焼け焦げた皮膚の臭いも、口角から血泡を吹いているのも、高熱を浴びて瞳が白濁しているのも。

全て、人間のものにしか見えない。

ここまでくると、たとえ人間であろうと人間でなかろうと、死は間違いない。

シオンはその様子に見兼ねて、首に手刀を叩き込んだ。がくりと首が垂れる。


「……こいつは、人形だ」


ぼそりと呟く。

シオンのその目は、息を引き取った人間でない人間…人形を見ているようで、見ていなかった。


それは、遠い遠い、過去。


「人に似せて作られた、科学と魔法の合いの子…」



ああ、作られてしまったのだな、と。

このせいで自分は今もたった一人、この世界を生きている。

このせいで自分は全てを無くし、こうしてここに立っている。

存在は聞いていたが、只の噂だと、虚言だと、自らに嘘を吐いて無視してきた。


それが、目の前にいる。





「魔道人形、マリアネッタだ」










そ れ は 悪 夢 よ り も 絶 望 的 な 真 実 。




+++

第三話。

アロドさんは嫉妬の人。
いや、多分親子以外に他意はないよ。お父さんを取られた気分なんだよ。
軽くファザコン気味。そしてシオンは心配性。

あえて言おう、私は陛下とデンが好きであると!!!
お粗末さまです。

07/03/11

07/06/18修正・主人公の苗字間違えるとかどういうアレだ。




【2007/05/25 22:57 】 | 未分類 | コメント(0) | トラックバック(1) | page top↑
第二章・それでも俺は、貴方に付いて行く
何かを護る為に、僕は強くなろう。

誰かを護る為に、僕は強くなろう。

貴方を護る為に、僕は強くなろう。



大切な人達を護る為だけに、僕は強くなろう。



***



「こりゃあ…ひでぇ有様だ」

「ある程度は予想していたけどな。」


姫と騎士副団長の二人と別れ、龍帝国の首都に着いた旅人二人は各々呟いた。

はぁ、と溜息をつく少年……シオンは目の前の惨状を眺めやる。

赤い、緋色の劫火。

城下町を舐めるように焼くそれは、戦火の炎。

ある程度予想はしていたが、これは酷い。復興までに相当な時間がかかるだろう。


「ったく、帝国二千年の歴史を好き勝手に破壊しやがって…」

「二千年も前のものなのか?」

「何度も改築したり整備したりと大変だったけどな。質素な感じだけど、なかなかいいだろ?」


そうだな、とレスは言う。

街並みの基本的な材質のほとんどは赤茶けた煉瓦。多少質素な感じはするが、幾分の隙も無く綺麗に整備されている。

いつぞやに行った某国の豪奢な街並みよりは、ここの方がレスの好みに合っていた。

まあそれも、すでに破壊されてしまったものだが。


「所で」

「ん?」

「さっきはあえて突っ込まなかったが…守護者ってなんの事だ?」


ああ、とシオンは答えた。

首都から少し離れた街道で出会ったシュール姫。

彼女は、シオンを見て「我が国の守護者」と言った。

我が国とはつまり、龍帝国イー・ヴァー・ディドル。この国の事だ。

二千年も栄えたこの帝国の守護者。そう呼ばれるほど、この少年の地位は高いのだろうか。


「大した意味はないよ、10年もほったらかしにしちゃってたんだし。ミオにまかせっきりだったし」

「10年も…って、お前何歳だ」

「さぁ。数えるのも面倒になっちゃったから覚えてないね」


目の前の少年はどう見ても15、6程しかない。

10年前とすればほとんど何もできない子供じゃないか。

ひょっとしたら、シオンの正体は実はもっと年長者で、今の格好は仮の姿なんだろうか。

ありえないことは、ない。

力のある魔道師は自分の姿も変えることができるというのだから、シオンだってきっと。

だって、彼も本職は魔道師なのだから。

何だか目の前の少年が得体の知れない怪物にも見えてきた。


「…………あんたに付いていっていいのか、心配になってきたよ」

「それでも付いてくるんだろう?」

「まぁな」


記憶を無くして右も左もわからなくなった俺を拾ったのは、シオンだ。

だからその事に恩義もあるし、それに、どうせ行く当ても無いからシオンの旅に付いて回っている。

微妙な信頼関係で俺達は共に戦い、旅をする。

それでも俺は、


「信用してるからな」


少年はにやりと笑って、燃え盛る城下街へと駆けて行った。



***



戦火の炎は意外にも、奥の方が弱かった。

今の所一番被害を受けているのは首都を護る城壁付近のようだ。城付近はそうでもない。

けれど、放って置けば被害は更に広がるだろう。

奥へと進むのと比例して、帝国騎士と敵兵の数は増えていく。


「おい、あれ助けないのか?」


ふと、レスが訊く。

あれとはさっきすれ違った、敵兵と戦っている騎士の事だろうか。二対一でパッと見た感じ不利になっている。

が、その騎士は飄々とした顔で二つの剣を一つのハルバート(斧槍)で受け流していた。相当の実力を持っているらしい。


「いちいち助けるのか、時間がかかってしょうがないだろ。それに助ける必要も無いみたいだし」

「いや、騎士じゃなくて。騎士の後ろに一般市民がいるんだよ」

「一般市民?」


彼らのポリシーとして、救助の優先順位は武力を持たない人間が最優先と決まっている。

この場合、敵兵は含めないのは当たり前だが、武装した人間も含められるのが彼ららしい所だ。

出張るのは好きではないが、弱者は守るのが当然だ。

渋々速度を落とさずにUターンして戻ってみれば、確かに、先程の騎士と相乗りする女性が一人。

どう見ても非武装の女性は、眼鏡をかけた生真面目そうな黒髪の人だった。この状況でも慌てた様子は微塵もない。

この場にいる人間の中で、血相を変えたのはただ一人。


「レス、助けるぞ!!」

「は?」

「いいから助ける!!」


ばん、ばんとレスの背中を叩いて駆けていくシオン。その顔は珍しく慌てた様子だった。

レスはその態度の変わりように対して、「は?」と言ったのだ。決して救助に不満がある訳ではない。

知り合いかと訊けば、シオンは答えなかった。

何故ならば、その時にはもう呪文の詠唱を唱えていたから。


「荒ぶる神よ、精霊よ。我が名の下に、集え、集え」

「……」


しかも、それは上級の凶悪な攻撃魔法ではないか。

レスは聞いた事のある詠唱を耳にして追いかけるのをやめた。巻き込まれるのは御免こうむる。


「我が前に人在らず、我が前に敵在らず。吹き飛べ!嵐砲!!」


シオンの目の前で空気の塊が球状になり、轟音を立てて敵に突進して行った。

それは拳大の小さなものだったが、威力は嵐を凝縮したようなものだった。

塊が敵兵の一体に触れた。

途端、敵兵は塊に押され、もう一体を巻き込んで吹き飛び、建物に衝突して崩れ落ちた。

その体は二体とも、五体不満足。どう見ても生きている様子はない。


「アロド、デン、無事か!?」

「シオンさん酷いっすよー、さっき俺の事無視しましたでしょー」

「お前だけならとっととミオの所に行ってた。…アロド、大丈夫か、怪我はないか?」


珍しくおろおろとしているシオンを見て、レスは小さく笑った。

本当に、珍しい。

いつもなら、自分が相手だったら、怪我をしていても唾つけときゃ治ると言って放って置くのに。

そんな事を思い出しながらまた笑う。


「あっはっは、心配しなくてもいいですよー。俺がちゃーんと守っておきましたからね」

「お前だからこそ、余計心配になるんだよ!」

「だ、大丈夫ですからっ!閣下が付いてくださいましたし、私はもう一人前の符術士ですからっ」

「いいや心配だ、念の為に回復魔法を…」

「いいですからっ!!」


戦場なのに、この穏やかさは何なのだろうか。

疎外感を感じつつも、思わず顔が綻ぶ。

こうして見ると普通の少年なのに。

戦っているときは、敵の体をバラバラにする程、容赦も何も無い凶悪な人間なのに。

まるで人間でないような破壊力を持った、化け物染みた奴なのに。


それでも、俺は。


あんたが本当は誰よりも優しいって事を知ってるから、付いて行くんだ。










そ れ で も 俺 は 、 貴 方 に 付 い て 行 く 。



+++

レス視点の第二話でした。
とりあえずアロド&デンと合わせてみました。
そしてササミのデータがぶっ飛びましたorz
ちくしょう、第五話まであったのに。

今更だが、実はシオンのキャラがいまいちわからない私(殴)
だって色んな「シオン」がいるんだもの!

07/2/18




【2007/05/25 22:56 】 | 未分類 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
第一章・嗚呼、何故貴方はそうも綺麗に笑えるのか
は、と目が覚めた。

辺りは昇りつつある太陽と、やがて堕ちる月のお陰で平原が見渡せる。

その平原を二つに分断するようにしてできた道の端、ぽつんと立った木の上で寝ていた。

どくどくと、体中に血液が流れるその音が煩かった。

ずきずきと、木の上で寝たせいか痛む背が煩わしかった。

そして何より、悪夢を見て飛び起きた後の焦燥感と不安が抜けないのが邪魔でしょうがなかった。


「―――――夢、だよ。あるわけない、夢だ」


確認するように呟く。

それは己に言ったのか、それとも懐かしい友へ伝えたかったのかもしれなかったが。

銀色の長い髪が、汗でじっとりと濡れた額に張り付いて妙に苛々した。


「夢だ。うん、夢なんだ」


そして、もう一度確認した。

悪魔を祓う真言を唱えるかのように、彼は何度も何度も確認した。

何度目かわからなくなった頃に、怯える子供のような行為が馬鹿らしくなってやめた。


「……レス?」


下にいる同行者に声をかける。いつものように、返事はない。

まだ寝ているのか、と。そして半分は悪夢の苛々を解消する八つ当たりの為に、行動を起こした。

寝ている木の枝から降り、すたっと体格の大きな同行者の隣に着地する。


「起きろレス。朝だぞ」


返事は、ない。

小さく溜息をついて、普段のように片足を大きく振り上げた。



鈍い音と、大男の悲鳴と、太陽が昇り切ったのはほぼ同時刻の事だった。



* * *



「アンタってさ、本当に容赦ないよな」

「そりゃどーも。もう一発頭蓋骨陥没させるくらいの、受けてみるか?」

「謹んでご遠慮願います」


そんな、もう日課になってしまった、他愛も無い会話。

平原をてくてくと歩くのは小柄な少年と大柄な青年の対照的な二人の旅人。

少年は長い銀髪を一定間隔で結いながら、小さく早歩きをする。

青年はしばらく切ってなさそうなばさばさの茶髪を鬱陶しげに払いつつ、少年の後をゆっくりと追っている。

白い小さな少年と、茶色い大きな青年。

これほど妙な二人組み、しかも旅人は誰も見た事がないだろう。


「で、まだ目的地に着かないのか?」

「誰のせいだ」


はて、誰のせいだろう。前髪で外からは表情の見えにくい青年は、考える。

二人揃って大食いの為、食料が尽きて足止めを食らったことか。

それとも地図を無くして逆方向に一ヶ月くらい歩いていた事か。

それともどこぞの小さな村が山賊に襲われていたのを偽善気取りで助けたりしたことか。

それでその山賊が、思いの外規模が大きくて、しつこくて。返り討ちにしたら壊滅させてしまったわけだが。

思い当たる節が多すぎるが、とりあえずは。


「少なくとも俺のせいだけじゃないな」

「まぁ、俺のせいでもあるな」

「半々だろ」

「だな」


そうして会話は、続かない。

土踏む音と風が草を揺らす音のみが聞こえる草原で、二人は歩く。

別に、それほど仲が悪いわけではない。かといって特別仲がいい訳でもない。

元々知り合ったのはつい数年前、しかも少年が行き倒れた青年を拾ったという形で、だ。

しかも青年の方はどういう訳か記憶を無くしていて、そのまま放り出すわけにもいかず一緒に旅をしているという訳だ。

しかし利害一致だけではなく、お互いが妙に気が合っている為、数年も付き合っていられるのである。

そんな、外見だけでなく関係まで奇妙な二人だった。





「あ。レス、誰か来るぞ」

「お、ホントだ。…ありゃ騎士か?乗ってるのは馬みたいだが」


二人が向かう方向から一騎、何かが駆けてくる。

その何か、馬のような生き物の上には甲冑を身に纏った騎士と、その後ろには女性が座っている。


「…獣馬だ」

「獣馬?」

「イー・ヴァー・ディドル龍帝国、そこの騎士団が乗る馬だよ。通常の馬よりも機敏で素早い動きが特徴だ」

「ふーん。そういや龍帝国の首都に向かってるんだよな、俺ら」


この先の道は、龍を守護神とする国・ディドル帝国の首都クワル・ヴァ・リーアへと通じている。

つまりあの騎士は首都から駆けているという事になる。

そんな事を思案する内に、騎士は二人の目の前にまで迫り、立ち止まった。


「そこのお二方、この先は危険だ。行かぬ方が身の為だぞ」

「…危険?どういう事だ」


少年の目が剣呑の色を帯びる。

金色の瞳が騎士の目を捉え、心の奥まで見透かすように見つめた。

しばし沈黙が流れ、やがて騎士が呟くように話す。


「現在、首都は未確認の国家級軍隊に襲われている」

「…………状況は?」

「城下町が焼かれ、城は制圧寸前だ。敵の中には魔獣もいる」

「……まいったな、おいレス」


少年が、それまで二人の会話を聞いていた青年を呼ぶ。


「別の道でも探すのか?」

「馬鹿言え、ミオやデンが戦ってんだぞ、行くに決まってる。…で、騎士さん。アンタ名前は?」

「…………」

「どうした、人に言えないような名前か?」

「違う。ただ…何故、皇帝陛下と騎士長閣下の名を」

「あーそれは気にすんな、昔の知り合いだ。で、アンタは…鎧の紋章からすると、副長さんか?」


まじまじと騎士の鎧を見つめ、さらりと問題発言を連発する少年に、騎士団副団長は怪訝そうな顔をした。

何故このような、成人(※龍帝国の基準では15歳程で成人)するかしないか位の少年が鎧の紋章の違いなど知っているのだろうか。

帝国騎士団員の鎧にはそれぞれ紋章があり、それは騎士団の中での地位を示す。紋章は一般人には見分けがつかないものだ。

それに、皇帝の幼名で呼ぶ人間は、皇帝と親しい者しかいない。

とすれば、この、奇妙な出で立ちをした銀髪の少年は皇帝とは知人なのだろうか。

考えれば考えるほど、騎士は悩み込んだ。


「とすると…後ろの人は、もしやシュール・セナ・イ・マルシア皇女様かな?」

「…!!本当に、何者だ、キミは」


龍帝国では一部の人間しか知らない、隔離された姫の名前。

帝位継承権争いを防ぐ為に、次の帝位を継ぐ者は成人するまで名前と顔を隠して離宮に隔離される。

もちろん彼女も例外ではないが、成人する直前にある事件が起こり、それから10年も成人の儀を先送りにされているのである。

そういう訳でその顔と名を知っているのは、10年前の事件で亡くなった先代の皇帝陛下とその妃、そして専属の女中のみだ。

もちろん現在の皇帝でも顔はわからない。この国の上層部でも名前しか明かされないし、自分もつい先程知ったばかりだった。

それなのに、一目見て正体を見破った、この少年は。

騎士は腰の剣に手をかけて少年を見据えた。


「よい、騎士副団長。下がれ」


ふと、その剣に手が置かれる。

その手の持ち主は、背後の女性…シュール・セナ・イ・マルシア姫。

25年もの間離宮に隔離され、平穏無事に暮らしていても流石は帝王の一族。威厳は女性ながら十二分にもある。


「しかし、姫様!」

「よいのだ。……この者に、心当たりがある」


その瞳は真っ直ぐに少年を見つめる。

騎士は見ようとしなかった、その金瞳は、一部の人間しか持たない珍しい目を。

しばしの時が流れ、そして。





「汝が、我が国の守護者……シオン・ミュハトルテ殿か」





銀髪の、背の低い少年は何も言わなかった。

変わりに、子供らしく無邪気ににこりと笑っただけだった。










嗚 呼 、 何 故 貴 方 は そ う も 綺 麗 に 笑 え る の か 。




+++

やっとこさ第一話です。
しかも長いです第一話。
最初、第一話でレスとシオンが一緒に旅してる一面で終わるつもりでした。
でも第二話で姫と合流する話が短くまとまってしまったので一話に統合しました。
考えなしの結果ですたね。ははははは。

とりあえず主人公はシオンです。一応。
ヒロインでも脇役でもありません。主人公です。

07/2/9




【2007/05/25 22:55 】 | 未分類 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
序章・懐かしき貴方へ、平和を捧ぐ
とある帝国の、皇族が住む城。

その城の執務室にて、一人の青年が二枚の紙きれを手にし、ふぅと溜息をついた。

別段、疲れているわけでもない。かといって嫌な事があったわけでもない。


「一体何年経ったと思っているんでしょうかねぇ」


紙切れを机に放り投げ、呟く。

その紙にかいてあるのはそれぞれ、「しばらく帰らない」と「そろそろ戻る」といった文字で。

片方はほとんど擦れて読めず、もう片方は多少掠れてはいるが最近の物らしかった。


「でもそれはそれで、あの人らしいですよねー」


ひょい、とその紙を拾ったのはまた別の人間。こちらは動きやすそうな軽い甲冑を身に纏った、眠そうな目をした騎士だった。

いつ部屋に入ってきたのだろうか、青年はふと考え、まあいいやとすぐに投げ出した。

元来思い悩む性格ではない。そういうわけで、この手紙についても大した思いは湧かなかった。

どうせ放浪癖と面倒臭がりとトラウマが同居したような中身を持った人なんだから。


「で、これいつ来たんですかー?」

「二ヶ月前だね」

「全然帰ってこないじゃないですねぇ」

「まあそれはそれで、あの人らしいじゃないか。戻ってきたらそれをネタにしばらく遊べばいいしね?」

「うわ、あの人が可哀想だ…ご愁傷様ー」


へらりと騎士が苦笑いして、「そろそろ戻る」の方を机に放り出した。

何かと物騒な事を薄笑いを浮かべながら言う上司は怒っているようにも見えなくも無い。

騎士はここ十年帰ってこない上司を思い浮かべながら、「しばらく帰らない」の方を眺めた。


「騎士団長様」

「げ、アロドさん」


がちゃりと執務室の扉を開けて入ってきたのは、眼鏡をかけた二十代前半の女性。

つかつかと入ってきた女性はそれなりに背は高いが、それよりも背の高い騎士に詰め寄った。


「また仕事を抜け出して!貴方は!!自分の立場をお判りですか!!」

「いやだなーちょっとした休憩だよー、そんなに怒ると美人が台無しだよー?」

「……そろそろ武力行使してもいいですか」

「暴力はんたーい。ですよね陛下ぁ?」


本当を言えば騎士団長が一介の女性秘書に負けるわけではない、が、彼は女性に手を挙げるのは好かない。

別に女好きでもフェミニストという訳でもないが、それに彼女は「あの人」の養女である。手を挙げれば戻ってきた時に殺されかねない。

騎士団長は陛下…つまりはこの国の皇帝の後ろに逃げるふりをして彼に同意を求めた。


「まあ暴力は振るってはいけないけどね。また抜け出してきたのかい?」

「いやーちょっと陛下の御身が心配で心配でー」

「しょうがないなぁ」

「でしょでしょ?」

「じゃあ私の権限で君の仕事を増やして給料を下げようか」

「げっ、そんな御無体なぁ」


しかし有言実行がモットーの上司は冗談でも本気でやりかねないので素直に仕事に戻る事にする。

とぼとぼと大型犬のように部屋を出て行った騎士団長の背を見送ったアロドは、机の上の紙を目にした。


「……父上、もう二ヶ月になりますね」

「心配?」

「はい。義理ではありますが、私の父であり恩人でもありますから」

「そうか。でも大丈夫だと思うよ、そう簡単に死にははしないと思うけど?」


それこそ天変地異が起こらなきゃ。

ある意味神の如き力を持つ、かの人物を思い出してアロドはくすくすと小さく笑った。

思えば妙な人物である。

表は沈着冷静なふりをして、かと思えば身内から見れば滅茶苦茶で猪突猛進で、とてもじゃないが賢者と呼ばれる人間とは思えない。


「案外、大食いだから食料が底をついて身動きとれないのかも」

「かもしれませんね」


懐かしい人を思い出して話に華を咲かせる二人。

温和な若い皇帝とその秘書が歓談している姿は、見る人がいれば微笑ましい物だ。

だが。



「陛下!陛下!!」


ばたばたがちゃがちゃと甲冑の音を響かせて扉を開けたのは先程の騎士団長。

珍しく眠そうな目が見開いていて、元の鋭い目が印象を変えていた。知らない人が見れば別人に見えてしまう程だ。


「騎士団長様、また抜け出して来たんですか!あれほど言ったのにまた…」

「アロドさん、それ所じゃないんです!!」

「どうかしましたか?」


息を切らせる騎士団長の姿に、只事ではないと察した皇帝が動じずに訊く。

相当走ってきたようだ、騎士団長は渇く喉を唾液で濡らして、ようやく話し出した。


「城壁の外に、軍勢が」

「…規模は?」

「わかりません、次々増えてきます…一個小隊毎に、何も無い所から、突然」

「参ったね、瞬間移動魔法のプロが敵にいるのかな」

「恐らくは。歩兵が多く、魔獣まで使役しているようです」


敵は恐らく、国家規模であると見て間違いない。

しかし近隣諸国で敵に回した国に覚えはない。

それに古くからあるこの国を敵に回せば、他の国から反感を買う事になる。どんな利益があるのか。


「全軍に出撃命令と、警備兵には民の避難指示を出しておきました。陛下とアロドさんも、姫様と避難の準備を。副団長が付き添います」

「いや、私はここで待ってるよ」

「でも陛下…」

「私はこの国をあの人から任されたんだよ、ならこの国を捨てて逃げる訳にはいかない」


十年前、あの人が己の無力を呪い、旅に出た時から。

そして、己の立場を知った時から。

この国の守護者はいない。ならば私が護るしかない。

貴方が愛したこの国を、貴方が護ったこの国を、今度はこの私が護ろう。


「トリシャ騎士団長、君も姫の護衛についてこの国を脱出しなさい。アロドも一緒に行くんだ」

「いいえ、俺は残ります、元々そのつもりでしたし副団長に話は通してありますから」

「私も残ります!自分の身は自分で守りますから、どうか」

「…まったく、融通の利かない子だな」


少し呆れたように、それでいて苦笑したように、皇帝は溜息をついた。


「二人とも、気をつけるんだよ。特にアロドは、危なくなったら逃げるんだ」

「はい」

「陛下もお気をつけて」

「平気さ」


机の上の紙を机の中に大切に仕舞い、引き出しの鍵を閉めた。

あの人が大切にしてきたこの国を壊されてなるものか。

それに、私は。


「あの人に次ぐ、この国で二番目に強い魔道師(マグラ)だよ。そう簡単にやられるものか」





戦火の気配は、すぐそこに。




【2007/05/25 22:53 】 | 未分類 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
はじめに。
・このブログについて。

基本的に自作小説【Marionette Phantasia】のみの更新となります。
それ以外の更新は滅多にありません。
コメントはどなたも書き込み自由ですが、誹謗中傷だけはやめてください。
ノートメンバーは、ネタバレになりそうな内容ならなるべく隠してください。


・【Marionette Phantasia】について。

マリオネットファンタジア、通称「ササミ」です。
殿を始めとするノートメンバーが画力向上交換帳(自由帳)に描いた「RPGキャラクターを作ろう企画」より派生した物語です。
元々はキャラクターと個人設定しかありませんでしたが、どこからどうでてきたネタやら個人趣味やら世界観やら暴走してできた結果がこれです。
内容はファンタジーです。
終わるかどうかは未定ですけどね!(何)


ちなみにメンバーは私を含めて七人。
一応名前だけ書いておきます。


○さもえど(@管理人)
○若様
○兄貴さん
○闇藤ばん(にゃふ)
○殿
○母
○魔女っ子イニシャルM(笑)



この名前だけは断固拒否する!とか文句ある人は一人しかいないような気もしますが連絡お願いします。
後悔はしてないけど罪悪感はあります。



変な勢いで書いていこうと思います。
【2007/05/25 22:29 】 | 未分類 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
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